第34話 34
「私のエクレアは誰にもあげないわよ!?」
ハーデースの神の血を吸った深紅の剣ブラッディソードから、遂にエクレアさんが目覚めた。
「エクレアさん。お目当ての冥界エクレアは、こっちですよ。」
シューがハーデースからの宅急便の冥界エクレアを見せる。
「わ~い! エクレアだ! いただきます!」
エクレアが大好きな天使エクレアが釣れた。
「美味しい!」
エクレアは冥界エクレアを口いっぱいに頬張っている。
「まったく、エクレアさんは緊張感がないな。」
シューはエクレアさんを見て愚痴っぽく言う。
「シュー、おまえは美味しいエクレアを食べるのに、お茶の用意もないのか? はあ・・・、ガッカリだよ。」
エクレアさんは負けず嫌いである。
「エクレアさん、あいつを倒せる?」
急にシューの表情が真剣になる。
「余裕だ。だってエクレアを食べたんだから。」
エクレアもシューと同じく真剣な表情になる。
「よし! いくぞ!」
シューとエクレアさんは、アダイブ・シエルを見つめる。
「舐められたものだな。」
アダイブ・シエルはシューとエクレアの態度に怒りを覚える。
「たかが人間と死にぞこないの天使が、全知全能の神が創りしアダイブ・シエルに勝てると思っているのか? 冗談は休み休みに言え。」
アダイブ・シエルは神に誓い存在までレベルアップしたと自負している。
「俺は天の力と冥の力を手に入れ、限りなく神に近づいた存在だ。おまえたちごときに負ける訳がない。いけ! 天使ども! こいつらを皆殺しにしろ!」
「ガガガ。」
アダイブ・シエルが呼び出した無数の天使たちがシューに襲い掛かろうとする。
「神の光! 神の炎!」
「神の裁き!」
ウリエルとミカエルが無数の天使たちの相手をしてくれる。
「シュー、こいつらは任せろ! うっかりしないよ。」
「今回は主役の座を特別に譲ってやろう! キャハハハハ!」
「ウリエル、ミカエル。」
次々とウリエルとミカエルは無数の天使たちを倒していく。
「アダイブ! 決着を着けてやる!」
「望むところだ! おまえの血も吸いつくしてやる!」
遂にシューとアダイブ・シエルの最終決戦が始まろうとしていた。
「エクレアさん、いくよ。」
「食後の運動には、もってこいだ。」
エクレアさんは冥界エクレアを食べ終えてご機嫌だった。
「今度こそ、アダイブ・シエルをぶっ倒す!」
シューとエクレアは、アダイブ・シエルを倒すことを誓う。
「倒したら、エクレアパーティーだ!」
「はあ・・・エクレア食べ放題です。」
相変わらずのシューとエクレアであった。
「もう勝った気でいるのか? 俺は、そう簡単にはやられんぞ!」
アダイブ・シエルは天と冥の気をまとい、エネルギーに満ち溢れている。
「偉大なる神が創造した天使、それが俺、アダイブ・シエルだ! 天の波動と冥の波動を受けてみるがいい!」
アダイブ・シエルは天と冥の波動を自由に操ることができる強者になっていた。
「やっぱり、それでも私の勝ちだな。」
エクレアさんは目の前の化け物を目にしても余裕である。
「どうして!? そんなに落ち着いていられるんですか!?」
シューはアダイブ・シエルの強大なエネルギーにビビっている。
「それは・・・。」
「それは・・・!?」
もったいぶって間を作るエクレアさん。
「あいつが私の血でできているから。」
エクレアさんはアダイブ・シエルを冷たい視線で見る。
「エクレアさんの!?」
アダイブ・シエルは天界の嘆きの壁に捕らえられている神の血を司る天使エクレアの血の涙が原材料である。
「さあ、私の血よ。私の元に帰って来なさい!」
エクレアさんはアダイブ・シエルに流れる自分の血に呼びかけた。
「な、なに!? バ、バカな!?」
アダイブ・シエルの体から、エクレアさんの血が噴き出し始める。この作品はエクレアで笑いをとる作品ではなく、生き血の滴るブラックファンタジー作品である。
「アダイブ・シエルから噴き出した血がブラッディソードに吸われていく!?」
血が主の元へ還って来たのだ。深紅の剣は赤い血の色を輝かせる。
「私の血は私のものだ。返してもらって何が悪い。」
エクレアさんはひょうひょうとした感じで血が戻ってくるのを喜んでいる。
「エクレアさん、薄く見えていたのが、少し濃く見えるようになったんじゃない!?」
「血が濃くなったんだろう。まだ完全には程遠い。」
エクレアさんの姿は確かに濃くなっていた。
「ふざけるな!? 吸った血は俺の物だ!? 俺の物だ!?」
アダイブ・シエルは全身から血が噴き出し、ブラッディソードに吸い込まれていく光景を理解できずに荒れ狂っている。
「シュー、そろそろアダイブと決着を着けようか?」
「はい。終わったらエクレア食べ放題です。」
「わ~い! エクレア食べ放題!」
エクレアさんに緊張感という感情は無いのかもしれない。
「俺が負けるなど、俺が負けるなど、ありえないのだ!」
天と冥の波動をシューとエクレアに向けて放とうとする。
「愚か者。」
アダイブ・シエルの体が強力な天と冥の波動に耐えきれずに崩壊を始めた。
「なんだと!?」
アダイブ・シエルも体の崩壊に驚く。
「ヘカテーさんの血、ペルセポネーさんの血、おまえに血を吸われた人々の無念と共に、消えて無くなれ! アダイブ・シエル!」
シューは深紅の剣ブラッディソード・エクレアを構え、血の翼を羽ばたかせ、アダイブ・シエルに突撃する。
「でやあああああ!」
「グワアッ!?」
シューはアダイブ・シエルを斬り捨てる。
「ブラッディ・スラッシュ!」
アダイブ・シエルの傷口から血を吸い赤く染まっていくブラッディソード。
「お、俺の、負けだ。まさか・・・人間に負けるとは・・・。」
アダイブ・シエルの手足から灰になって消えていく。
「シュー、おまえなら・・・天界にたどり着けるかも・・・しれない。」
アダイブ・シエルも高貴な存在である天使である自分が、人間に負けたことを認めていたのだろう。清々しい顔をしていた。
「がんばれよ・・・。」
最後に笑顔を見せるとアダイブ・シエルは、この世から消えた。
「アダイブ・シエル・・・。」
これまで何度も戦ってきたアダイブ・シエルの消滅を、少し寂しそうな表情を見せるシュー。
「相手は吸血鬼だぞ? なぜ寂しそうな顔をする?」
「悪い奴なんですが、悪いヤツなんですが・・・もしかしたら創った神が悪い奴で、本当は、そんなに悪い奴ではなかったのかもしれないって思ってしまうんです。」
「人間は本当に分からない生き物だ。私には理解できないな。」
純粋なシューに、頭を掻きむしりながらお手上げをアピールする天使だった。
「全部、終わりましたね。さあ、エクレアを食べに行きましょう。」
「エクレア! わ~い! エクレア食べ放題だ!」
エクレア食べ放題に大喜びするエクレアさん。
「僕には天使の方が理解できません。」
シューにはエクレアが偉い天使には見えなかった。
「エクレアさんはエクレアさんでしょ。」
「そうだ。私は私。おまえはおまえだ。それでいいじゃないか?」
「はい。」
なにか吹っ切れたように清々しい表情の二人。
「エクレアさん、冥界エクレアも美味しかったでしょうが、エリザさんの作るエクレアも、とても美味しいですよ。」
「エリザ? シューも女を作る歳になったか。ほうほう。」
「お、女!? ち、違います!? え、エリザさんはエクレア職人のパティシエさんですよ!?」
「慌てる所が怪しい。まあ、いいだろう。エリザという者の作ったエクレアが美味しかったら、おまえたちの交際を天使の私が認めてやろう。」
「ほ、本当ですか!? やったー! 天使公認のお付き合いだ! わ~い!」
「・・・。」
単純なシューに保護者代わりのエクレアさんも言葉を失った。
つづく。
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