ある昼下がりの

里山

1日目 ある昼下がりの海―

 


「釣れるかな?」


「今、長鯨ちょうげいさんの偵察機が魚群を探してるはずさ」


セミショートで茶髪、釣り目の女の子と紺色の学生帽を深く被った黒髪短髪の男の子が補給艦【伊良湖いらこ】の甲板から水面を穴が開くほど覗いている。


昼食で使う魚を捕っている最中、とはいっても昼食にしては多いのでは?と思われるほど魚を捕ってはいるが大食いな生徒がいるこの学校にとっては50キロというのはあっという間になくなってしまう。


「そうだ、明日各艦の艦内清掃らしい。その際、組によって先生が違うらしい」


「え゛っ、違うの?!」


「あぁ、空母組は鷲淵先生、潜水艦組は福村先生、巡洋組は堀内先生、駆逐組は近野先生、オレら戦艦組は山口先生だ」


「えぇ~っ!なんで空母組の先生が?!しかもよりによって山口先生・・・、米内先生がよかったぁ~」


「米内先生は駆逐組の手伝いに行ってるんだ」


学生帽の少年は横で頭を抱えながら手すりにうなだれる釣り目の少女の肩を軽くたたきながら遠くの空を双眼鏡で眺る。

しばらく眺めていると、遠くの空から小さな影がこちらに向かってくるのが見えた。


「なぁ武蔵、今日って哨戒訓練ってあったか?」


「へぁ?哨戒訓練……?さぁ、長鯨さんのじゃない?」


「でも、九四水偵しては……小さい」


眉間にしわを寄せながら双眼鏡を覗いていると小さな影がだんだん近づき、操縦席あたりからこちらに向かって誰かが手を振り“おーい”と叫ぶような声が聞こえてきた。


「ねぇ、この声」


「千代田だ、何してるんだ?」


小さな水上機が水面の上を滑りながら伊良湖の近くに止まった。


「ちーくんじゃん、何してるの?」


「笹井先生に頼まれたんだ、こいつの試験テスト飛行」


“千代田”と呼ばれる少年はバランスを取りながら右の主翼の上に立ち、風防をバンバンと叩く。

彼の乗っている機体は長鯨の九四式水上偵察機よりも機体が一回り小さい零式観測機、通称・零観、まだ新しくできた機体なため整備や性能等の運用性があるかどうか試していた。


「それにしても小さい機体だな、何て名前だ?」


「零式観測機。坂井センセーによれば短距離偵察と着弾観測が主な任務だってよ」


「短距離って短いじゃん、観測機でしょ?」


「バカ武蔵、役割が違うんだよ。偵察機は敵性地域の状況把握が目的だろ?だから長距離飛行が可能なんだ、それに引き換え観測機は敵の位置や自軍の砲火の着弾観測を目的とするいわゆる水上観測所、だから航続距離も水偵より短い。それに引き換え水偵には搭載されてない爆装が観測機には搭載されてる、いわば水上戦闘機だ」


「でも、観測機なんて海軍うちには一切……」


「あぁ、昔も今も陸軍と違ってうちには観測所が設けられないらしいな」


すると、千代田の乗ってる零観の無線機がジッジーッと無線を受信した。


『千代田、調子のほうだどうだ?』


「バッチしですよ」


『そうか、それはよかった。笹井先生には俺から伝えてくよ』


「お願いしま~す」


ふと双眼鏡を覗いてた学生帽の少年が「あっ」と小さく声を出した、その声を聞いてか千代田は少年と同じ方を向き沖をじっと見つめている。


「九四水偵?てかお前ら一体何してるんだ?」


「そうそう、魚捕り。今、長鯨さんが水偵飛ばして魚捕ってるんだ~」


「魚群探知機かよ…、でも今しがた信号が入ってきた。どうやら大量のようだな」


「そうか、俺もたった今長鯨さんをとらえたよ。武蔵、港にいる長良に連絡してくれ」


「ヨーソロー!」


その後、長鯨と合流した伊良湖は二人を乗せ、港に帰港。

太平洋に一人残された千代田は十数分後にやってきた長良により機体と共に引き上げられ、無事港に帰港した。


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ある昼下がりの 里山 @nagase12

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