天使からのラブレター

カゲトモ

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「・・・」

 店へ向かう途中、ふと足を止めた。商店街を過ぎて少し行ったところに小さな、本当に小さなブランコと滑り台しかない公園がある。そこにポツン、とうずくまっている姿が見えた。

 ここから見て小学校低学年くらいの男の子だと思う。誰も居ない公園で、一人で丸くなっていた。

 泣いている? 

 肩が上下しているようにも見えなくないし。でも声は聞こえない。噛み殺している?

 それとも体調が悪い?

 ただ泣いているだけなら、声を掛けるのもはばかられるが、体調が悪いのなら話は別だ。

 もし違っていたら、それはそれで話を聞いてもいいだろう。

「大丈夫?」

 近づきつつも、恐怖感を与えないために少し遠いところから声を掛ける。変な人じゃないから、大声は上げないでくれよ?

「ふぇ?」

 振り向いたのは涙でぐちゃぐちゃになった顔だった。恐怖と言うよりはキョトン、といった表情で、なんだか少しホッとする。別に何も悪いことをしようとしていた訳じゃないけど!

「どうしたの?」

 近づいてしゃがむ。えらく顔の整った子だ。くりくりとした目が可愛らしい。

「おとしちゃったの」

 その子がたどたどしく言って小首を傾げた。つい同じ角度で首を傾げてしまう。

「落とした?」

「ママにおこられちゃう」

 今度はじわっと瞳に涙を滲ませた。俺は急いでポケットティッシュを取り出す。さっき貰っておいて良かった。

「何を落としたんだ?」

「ウェルダーのけんだよ」

「うぇるだーのけん?」

「えっとね、これのけんだよ」

 ポケットから取り出したのは小さなキーホルダー。この子が言うにはこの戦隊モノみたいなキャラが持っていた剣が無くなったらしい。ママが買ってくれた、大切なキーホルダーなんだと言った。

「そっか、落としたのはいつ?」

「きのうだよ。ここであそんでいたの」

 小さな手で草の根を掻き分けている。その手には既に小さな傷が沢山出来ていた。

「よっしゃ、そんじゃお兄ちゃんも手伝ってあげるよ」

「えっ! いいのっ?」

「いいよ、頑張って探そうな」

 そう言った一時間後、ようやく小さな剣を見つけた頃には、もう足腰がバキバキになっていた。

「おにいちゃん、ありがとお!」

「いーよいーよ、気を付けて帰りなよ」

「ばいばーい」

 小さなその手には大事そうにキーホルダーが握りしめられていた。その子の顔は出合った時の事が嘘みたいに明るい笑顔になった。

 良かった。

 子供一人、笑顔に出来なければ憧れの人には近づけないのだから。身体は痛いけど、あの子が笑ってくれてよかった。

「さてと、仕事するか」

 んー、と大きく伸びをすると骨の軋む音がする。んー、歳には逆らえないかー。

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