激闘
やがて、雨が降ってきた。互いの最期を指し示すような冷たい雨が。
「行け」
怪悪魔ロキエルへの指示は、酷くシンプルなものだった。この悪魔は残酷だ。歩き、通り過ぎるだけで常に死体が発生するほどの。
「ベリアス、オリヴィエ。守れ」
アシュもまた悪魔たちに指示を課す。号令と共に、二匹が飛び出し、前へと進むロキエルに飛びかかった。
が。
まるで、弄ぶかのように、二匹の悪魔の鋭き攻撃をかわし続ける。そして、知らぬうちに、その傷だけが増えていく。
「……はぁ……はぁ……」
ライーザ王が苦しそうな様子で胸を押さえる。いかに素質があると言えど、中位の悪魔を操り続けるのは常人の業ではない。秒数のたびに、己の魔法力が減り続けていることをか悟った。
一方。アシュがゆっくりと瞳を開き、詠唱を始める。
<<悪鬼の 悪辣よ 我が闇へ 聖者を 誘わん>>ーー
悪魔べリアスとオリヴィエは一度アシュの側へと戻り。闇のエネルギーと共に、アシュは極大魔法を放つ。
本日2回目の
重厚な闇の光がライーザ王に向かって放たれる。その間合いから、避けることはできない。しかし、怪悪魔ロキエルがそれを阻む。闇のマントを取り出し、一瞬にしてその闇の光を消し去る。
さながら奇術師のように。誰もいない観客に拍手を求める仕草を見せる道化。
「ぜぇ……ぜぇ……奇妙な悪魔だよ」
アシュに弱音が漏れる。
その、強さに。
その柔らかさに。
その底知れなさに。
「はぁ……はぁ……もう、終わりか?」
「ぜぇ……ぜぇ……まだ……これからだよ! ベリアス、オリヴィエ」
そう叫ぶと二匹の悪魔はニイと満面の笑みを浮かべ、アシュにそれぞれ牙を突き立てる。半身をべリアスが、もう半身をオリヴィエが、喰らう。絶命するほどの痛みを超え、アシュは二体の悪魔の頭を抱きしめる。
<<悪魔をその身に宿し 神すら喰らう 凶魔を我が手に>>
瞬間、悪魔たちとアシュの間に闇が包んだ。やがて、そこにはアシュ1人がその場に立っていた。それは、まるで悪魔のような姿で。
「はぁ……はぁ……貴様……その姿……」
その皮膚もまた黒く変色し、圧倒的な殺意がアシュに湧き上がってくる。
「一匹だけでは対抗できそうにないのでね」
アシュはそう低く笑った。接近戦用の秘術、悪魔融合。その身に悪魔を宿すことによって、悪魔の超力を限界ギリギリまで引き出すアシュの
「はぁ……はぁ……貴様……正気か?」
「僕からしたら君の方こそ狂っているね。見知らぬ者のため? 平和? 狂っているよ。目の前の想い人にすら、守る覚悟もないくせに」
「……ロキエル」
ライーザ王の指示で、怪悪魔がアシュに向かって猛攻を仕掛ける。今度は、余裕を見せることなく全力で。
「うおおおおおおおおっ」
アシュの壮絶な蹴りが、ロキエルの側頭部を捉え、吹き飛ばす。そのまま、マウントを取り拳を繰り出す。一撃一撃が人間の頭ごと木っ端微塵にするような拳激。
怪悪魔は、アシュに頭突きを喰らわせて強引にポジションを変更。もはや、そこに薄ら笑いはなく、怒りと嘲りが入り混じった表情でアシュの頭部を地面へとぶつけ続ける。
「クエエエエェェェェェェェェェェェ―――――――――!」
奇妙な叫び声と共に。
みるみるうちにアシュの頭部が無残な形に変わっていく。
しかし。
ゆっくりと闇魔法使いは両手でロキエルの両目を抉る。
「クエエエエェェェェ! クエェェェェェェェ―――――――――!」
何度も叫びながらその場でうずくまる怪悪魔。
「ぜぇ……ぜぇ……クク……悪魔の瞳も柔らかいのだね」
フラフラになりながら。視覚を潰されたロキエルの側に寄る。
「クエェェェェ! クエェェェェ! クエェッ! クエェ!―――――――――!」
取り乱しながら暴れ狂う怪悪魔の一撃は鋭く強かった。止められるものではないと判断をしたアシュは、その突きを敢えて腹で受けた。
身体は見事に貫かれ、その感触を得た怪悪魔が不気味な笑みを浮かべる。
一方。
アシュも同様笑みを浮かべていた。
「ククク……捕まえた」
<<悪鬼の 悪辣よ 我が闇へ 聖者を 誘わん>>ーー
本日3回目の
防御する間もなく、至近距離で放たれた闇の光が、ロキエルに直撃した。
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