行進
シーザス荒野。気候的にも植物が育ちやすいこの大地は、幾たびも争いによって焼け野原となった。やがて、ここには木々が育たなくなり、大量の兵同士がぶつかる戦場として選ばれるようになった。
ライーザ王は、五星陣を選択。2万の部隊5つに分け、歩兵部隊を最前列へと配備し、左右には弓兵を、後方には魔法兵団を。自身は五芒星を統括する中心に陣取る。
「はっはっはっ! 絶景絶景!」
リザルト=エンブレ。四聖の一人であり、炎の魔法を得意とする魔法使いであり、清く正くを信念とする熱血漢である。同じく四聖のゼデス=グーンとベガ=リールは後方の魔法兵団を率いており、王の軍団には在籍していない。
「頼もしいな」
ライーザ王は、横で笑う。
「任せてください。なんなら、前方の軍勢に加わり敵を蹴散らしてみせましょう」
胸を強く叩き、自身の武勇を鼓舞するリザルト。
「そんなに殺したいかね?」
岩影から。低い声が鳴り響く。
「誰だ!?」
身構え、声をあげると、そこには白髪の闇魔法使いが立っていた。
「ふっ……随分遅かったね」
派手な登場をするために、ずっと岩陰に隠れていたナルシスト魔法使い。お弁当でも持ってくればよかったとは、体操座りをして3時間が経過した時点の感想である。
「アシュ=ダール……」
リザルトが唇を震わせながら、つぶやく。
「久しぶりだね。まだ、しぶとく生きていたのか」
「それは、こちらの台詞だ。ヘーゼン先生に封印されたとばかりに思っていたが」
「リザルド……この男は?」
ライーザ王が尋ねると、彼が答えるよりも早く、闇魔法使いがお辞儀をする。
「おっと……ご挨拶が遅れまして。僕の名前は、アシュ=ダール。以後、お見知りおきを。人は『大陸一の美男子』、『至高の紳士』、『天才闇魔法使い』等、様々な異名で称するが、君は好きに呼んでくれたまえ」
いつも通りのナルシスな挨拶。いつも通りのナルシスな仕草。まったくもって、いつも通り。
「最悪の闇魔法使いです。陛下、下がってください」
リザルトは、馬を降りてライーザ王の前に立つ。
「ほぅ。君が僕の相手をするのかね? 随分と成長したじゃないか」
「ふっ……お前など、俺一人で充分だということだ。何しにノコノコ出てきたのか知らないが、お前ひとりで万の軍勢が止まるとでも?」
「……ククク」
「なにがおかしい!?」
「相変わらず、君はバカだな。一向に成長しなくて笑えてくるよ」
「なんだと!?」
「僕の狙いはね……これだよ!」
闇魔法使いは大きく手をかざす。
その時、
一陣の風が吹き。
ヒラヒラと物体が舞う。
それは、至るところに。
無数に。
際限なく。
ヒラヒラ、ヒラヒラ。
やがて、一人の兵がそれを掴み。
こぞって、それを拾い出す。
全ての行軍は歩を停止し、狂ったように拾い出す。
「そうだね……魔法では止まらないかもね」
アシュは低く笑い、舞い落ちる紙吹雪を満足げに眺める。
人生を変える紙。人を生かし、そして殺す紙。
それを人は紙幣と呼ぶ。
「ば、バカな……これほど大量のレル札を……」
リザルトは震えながら我先にとお札を取り合う兵たちを眺める。
「クク……この大陸の富の半分は、実に10人の大富豪が独占している。その中でも2割を占める資産を僕が。こんな、紙切れを用意することなど、僕にとっては造作もないことさ」
もちろん、アシュ一人では5つの軍に同じことはできない。だから、
「……それだけではないな」
ライーザ王はつぶやく。
兵たちの中には精強な軍が多数存在する。厳しい軍律を課し、札など普段見向きもしないような者たちが。しかし、そのほとんどが、レル札に目を奪われ、我先にと躍起になっている。
「ご名答。これは、僕の
どの兵士にも欲望はある。普段どれほど律していたとしても、その欲に逆らえるものは、そうはいない。
「……なんのために?」
ライーザ王は素直に問いかける。
「ふむ……真の目的は、今ここでは言えないな。言っても、君たちとはまったく関係のない案件だ。ただ、これから伝える事実だけを言うと」
闇魔法使いは、不気味なほど精緻な笑顔で手を拡げる。
「僕は、君たちを、皆殺しにする」
「……私たちとはなんの関係もないのにか?」
「ああ。運が悪かったと思ってくれ」
「ふざけているのか?」
「ふざける? ああ、僕は
「貴様は……狂っているな」
ライーザ王は汚物を見るかのような目で眺める。
「ククク……狂ってなどいないよ。例えば、朝食に入ってなかったと思っていたニンジンが入っているんだ。その時に思うだろ? 『ああ、ついてないな』って……ククククク……ククククク……」
「もう、貴様は喋るな」
リザルドは両手をかざして、魔法を唱え始める。
「クククククク……クククククク……例えば、君たちが軍を興して、その時に巻き添えになって大切な者を殺される者がいるだろう? どうしようもない。どうしようもない。その時に、僕は思うのさ。『ああ、運が悪かったな』とね。君たちも、これから、関係もなく皆殺しになるわけだが。その時には、そう思えばいい。クククククク……クククククク……アハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……」
まるで狂喜するかのように天を仰ぎ、両手を開き、闇魔法使いは激しく笑う。
「……死ね」
「違うね……死ぬのは君たちだ」
<<果てなき業火よ 幾千と 敵を滅せ>>ーー
<<雹氷よ 聖者の時すら 凍らしめ>>ーー
二つの極大魔法が、激しくぶつかった。
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