研究室
数時間後、やっと部屋に到着し、アシュは背中の荷物を無作法におろした。
「きゃっ! いったぁ……なにするんですか!? 気持ちよく寝てたのに」
「……君は主人より早く眠る執事を見たことがあるかい?」
「ありません!」
「だからだよ!」
闇魔法使いから壮絶なツッコミが入った。
「って、もう部屋なんですか! いつのまに」
あたりをキョロキョロと見渡すネボスケ執事。
「……僕はそのセリフを4時間前に聞きたかったね」
おぶって歩いて、馬車に乗って、おぶって歩いて。その間、一回も起きなかったこと自体、恐ろしく神経を疑ってしまう。
「アシュさんが……連れてきてくれたんですか?」
「はぁ、他に誰がいるか教えてほしいものだね」
「……ありがとうございました」
少し顔を赤らめてお辞儀をするミラ。
「クク……お礼が言えるとは、進歩したね」
「エ、エヘヘ。それほどでもーー「ふむ……そう考えると世の中とはよくできているね。僕のような超天才にもなると、たとえ国家レベルの賞をとったとしても、賞賛などされない。唯一、大陸魔法協会最優秀賞を受賞した時ぐらいだね。その点、君ほど無能だと、『あ・り・が・と・う』の5文字を発しただけで褒められる。いいね、アホは。ある意味羨ましいよ」
・・・
「キーーーーーー!」
ブンブン拳を振り回すヒステリック・ミラの額を抑えながら、闇魔法使いはもう片方の手で頭をグリグリと撫でまわす。
「じゃあ、僕はそろそろ研究室に入るから。絶対に入ってきてはダメだよ。危ないからね」
「あっ、ちょ……まっ……」
バタン
「ふぅ……アホは放っておいて、やるか」
アシュはその足で研究室に向かった。
地下の螺旋階段を降り、鉄製の扉を開けるとそこには広大なスペースがあった。中心には大きな円卓があり、端には膨大な数の保管庫が立ち並ぶ。棚には、フラスコなどの実験道具が綺麗に整頓されている。
「うん……懐かしいな」
心を湧き立たせながら、闇魔法使いがつぶやく。研究とは理論と実証で成り立つ。監禁の8年間は、理論を構築するのには最適であったと言えるが、実証が全くできなかった。
まずは、部屋にアホ執事(ミラ)が入らぬよう鍵を閉める。実験の失敗も想定し、三重の結界を張り巡らす。万が一にも毒素が流れでたら、近づいてきた無能執事(ミラ)の人体に影響を及ぼす可能性もある。
「……まったく、面倒なことだな」
一人の時は、こんな心配しなくてもよかったのに、と煩わし気に眉間のシワを寄せる。
まずは、素材を準備。人の神経に作用を及ぼすデスライ草を数本、魔力を注ぎながらすり潰す。液体になったものをしばし眺めながら……ひと舐め。
「くっ……さすが……僕……だ……」
そうつぶやきながら死ぬほど悶える。ふと思ったことを実践せずにはおれぬ性格で、幾十年経過しようと一向に変わる気配はない。
この液体を母体として、様々な魔草を調合していく。デスライ草は強力な魔草だが、服用しなければ効果はない。肌に触れるだけで、効果をもたらすようなものに。それが第一段階であると、アシュは考えていた。
猛毒を創り出す実験は順調に進められていった。
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