バー
日陰の路地裏にある建物。
店内の壁にはあらゆる酒が置いてあり、店主の多分なこだわりが見られる。決して、高級感はないが清潔感があり、雰囲気もいい。
「綺麗な居酒屋ですね」
「……バーと言いなさい」
向かう先には、一人のバーテンダーが立っていた。中肉中背の中年。少し貧相な頭皮に陰りのある未来を感じざるを得ない顎髭の男。
「やぁ、リック。久しぶりだね」
パリン。
カクテルグラスを持ったバーテンダーは、手を滑らして割ることで驚嘆を表現した。
「ア……アシュ=ダール。生きていたのか!?」
「クク……僕は死なないよ。よかったよ、まだこの店がやっていて。また、世話になる」
「……」
リックの表情は物語っていた。
マジかよ……冗談じゃねぇよ、と。
アシュは早速カウンターに座り、好みの酒を物色する。
「ふーむ……見たことのない銘柄がたくさんあるね。やはり8年という月日は長いものだ……まずは、オススメのカクテルをもらおうか。あと、このお子ちゃまには、ミルクを」
「ば、バカにしないでください! カフェ・オ・レ、砂糖多めで!」
「……」
リックは、ミラのオーダーを聞いて、思った。
喫茶店行けよ、と。
「さて……まず話をする前にあちらの方に例のモノを」
大胆に肘をつき、離れた場所で一人カクテルを飲んでいる美人をクールにチラ見。
「い、いやしかし……」
「できないのかね?」
闇魔法使いの目がギラリと光る。
「……っ」
リックは、仕方なく、カクテルを作り出す。
シャカシャカ
シャカシャカ
「……どうぞ」
血のように真っ赤なカクテル。
「あら……注文してないけど」
ほんのり赤みがさした美人は、リックの方を見る。
「……あちらの方からです」
「まぁ……」
まんざらでもない感じ。なぜなら、アシュは、高身長で甘いマスクを持つ。
日々、出会いを求める女性にとっては、刺激的な相手である。
「でも、本当に綺麗な赤のカクテルね……名前はなんていうのかしら?」
それを聞くや否や、アシュが立ち上がって、大人美女の側まで行って、精一杯格好つけて、彼女の顎をグイっとして、言った。
「
「……」
バキッ!
彼女に顎クイを決めた手と交差するように見事なクロスを描いた拳がナルシスト魔法使いの顎に直撃。
怒りながら出ていく大人美女を尻目に、やれやれとアシュは席に戻り、リックが用意していたおしぼりで頭を吹く。
「……ふっ、時代は変わったね」
「いや――――、ちょっと――――!?」
横のミラから壮絶なツッコミが入る。
「な、なんだね? ついてくるのは仕方ないが、店の雰囲気を考えてくれ」
「なに時代のせいにしようとしてるんですか! 壮絶キモかったですよ!? ねぇ、リックさん」
「さ、さぁ」
こちらに振られても困ると言いた気な様子で、バーテンダーはグラスを拭く。
「ふっ、君みたいなお子さまには大人の魅力はわかりにくいかもしれないね」
「年齢の問題でもないですよ!」
「まぁ……なんとでも言えるよね」
「な、なんですかそのシニカルな微笑みは」
「結果から見れば、僕は手酷い失敗をした。でも、成功していたら、君はそうは言わなかったんじゃないか?」
「ま、まぁ……」
その時は、その女性の懐の広さに多大な尊敬の念を抱いていただろう。
「出会いは、一期一会。いろいろな女性がいるよ。失敗もあれば、成功もある。そういうことさ」
「……」
絶句。
恐ろしいほどナンパが下手で、しかもそれに気づいていない。
そんな中、再び女性客が入ってきた。
おおらかで、優しそうな雰囲気が漂う清楚系の美人である。
「あちらの方にも例のモノを」
!?
「い、いやしかし……」
さすがのバーテンダーも躊躇する。
この店、潰す気か、と。
「心配いらない。確率の問題さ、今度はうまくいく」
「そ、そんな……」
「僕の言うことが聞けないのかね?」
「……っ」
仕方なく、バーテンダーはカクテルを作り出す。
シャカシャカ
シャカシャカ
「……どうぞ」
血のように真っ赤なカクテル。
「あら……注文してないけど」
ほんのり赤みがさした美人は、リックの方を見る。
「……あちらの方からです」
「あら……」
やはりまんざらでもない感じ。アシュの風貌は、揺るぎなく格好いい。
「でも、珍しい赤のカクテルね……名前はなんていうのかしら?」
それを聞くと、アシュは立ち上がって、大人美女の側まで行って、精一杯格好つけて、彼女にの顎をグイっとして、言った。
「
「……」
以下、省略の、展開だった。
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