第6話 気になる思い

「マークをつけて送る若者が急増しています。これは郵便でも電子化でも言えることですが、内容をしっかり精査して送るよう今一度皆さんにお願いしたいです。」

 月一回ある紙ひこうき届け屋の会議。それ以外は自宅でもどこでも仕事をする場所は自由だった。ただ思いを受け取る端末さえ持っていれば良かった。その会議さえも遠方で来れない人はテレビ電話での参加だ。

「しかし精査していい思いだけを届けると偏った思いしか届きません。戒める必要がある人には悪い思いも送るべきです。」

 紙ひこうき届け屋へ町のみんなの思いは全て端末に送られる。その端末では誰が誰へということがしっかりと分かる。そこから、ただの悪口はもちろん送らないことに始まり、どこまでを送るべきかの議論は終わらないままうやむやになることが常だった。毎度のことながら不毛な会議だったような気がする。


 家に帰って端末を開くと何度か送られてくる気になる思いがあった。『死ね』とあらゆる人に送ろうとしている。もちろんこれを送るわけにはいかない。一、二回ならまだしもこの人はあまりにも頻繁だ。

 こういう人は市役所の担当部署に連絡する。生活は大丈夫かの確認や必要であれば精神科を紹介することに繋がっていく。

「もしもし。紙ひこうき届け屋の大坪です。ちょっと気になる思いを届けようとしている人がいまして…。」

 最近、越して来た人でどんな人かよく分からないままの人だ。

 通常、紙ひこうき届け屋へは転入者の引き継ぎがあって、どのような人なのか、どういう思いを送ったり受け取ったのかというのを知らされる。引き継ぐ前の人もよく分からない人だったらしくて辟易していたと聞いた。

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