第4話 送る時のマーク
たまに隆史や愛華に話しかけられてお互いに少し話して、途切れると筆談にまた戻る。その繰り返しだった。
しばらくしてラストオーダーから幾分経ったらしく、飲み放題の時間は終わりだ。店を変えるのかどうするかという話になった。
「とりあえず連絡先聞いてもいい?」
ごく自然に口にした隆史が神々しく見えた。慣れてるなぁ。普通はこういうもんだよなぁ。
次々に始まる連絡先の交換タイム。隆史は自然の流れで千佳にも携帯を向けた。
「あ、私…。」
断られると思ったからなのか急に隆史が別のことを言い出した。それはひどく俺の心を抉った。
「じゃさ。紙ひこうきを送る時のマーク教えてよ。」
は…。何、言ってんだよ。こいつ。
紙ひこうき。それは思いを届ける言わばツール。ただ時代遅れと言われる理由がいくつもあって、その一つが無記名。誰の思いかは明かされずに相手に届くのだ。それを…。
「私…マークって…。」
「あー。もしかしてまだ電子化になってない町だった?千佳ちゃんとこの紙ひこうき届け屋は化石かってくらい時代遅れなんだね。」
千佳は俺の配達地域にはいない。配達区域全員の顔と名前を一致させるのも仕事のうちだ。そもそも電子化を始めたところはごく一部でそれを反対している紙ひこうき届け屋が大半だった。
紙ひこうきが時代遅れだって言いたいなら紙ひこうきに頼らずメールでも電話でも直接でもいい。自分で思いを伝えたらいいんだ。
心がぐちゃぐちゃになっている俺に愛華が隆史に便乗して話を向けた。
「久人くんもマーク使ってるの?私のマークはねー。」
「俺、紙ひこうきやってないから。」
思っていたよりも大きくてはっきりした声が出て、みんながビクリと肩を揺らした。別のところで話していた裕太が気を遣ってくれるのが痛々しくて下を向く。白のスニーカーが床に張り付いたように動けない。
「久人は紙ひこうきが好き過ぎて。なっ?」
冷めた雰囲気に裕太には申し訳ないけど、この場に居られなかった。雰囲気がというよりも話題が…が正しいけれど。
「…悪かったな。裕太。俺、帰るわ。」
「いや。俺こそ…ごめん。」
裕太の悲しそうな声が胸を締め付けて申し訳ない気持ちでいっぱいになる。その心を見ないようにスニーカーを床から引き剥がして立ち去った。
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