300字絡繰りグルメ映投箱
森村直也
初収穫
飛んできたサラダ菜を佐々木は片手で捉えた。弾けた水滴が頬に届く。
「試食といこうじゃねーか」
同僚のモルコフはにやりと笑んで、同じく一枚をむしり取った。
少しばかり掲げてきたから、掴んだ拳をこつりと合わせる。二人同時に齧り付く。
確かな歯ごたえ。青い匂い。
葉先の緑の柔らかさ。広がる苦み。取れたての確かなみずみずしさ。
電子音満ちる房内にしゃくりしゃくりと音が響き。佐々木の視界がじわりと揺れた。
モルコフの笑みが深くなる。目を向けた先はゆっくりと回り続ける水耕栽培床の横の小さな窓。
「長かったな」
溢れた涙が珠になる。地球を映し宙を漂う。
モルコフの言葉に、佐々木はただただ頷いた。
サラダ菜は故郷と未来の味がした。
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