Sランク冒険者㉛
宿に戻ったレオンはベッドに腰掛け、フィーアから聞かされたSランクパーティーの話を思い返していた。パーティーのランクがSランクというのも驚きだが、それ以上にレオンには気がかりなことがある。
それはクライツェルが話していた、国が関わっているかも知れないということだ。
(クライツェルの話では、パーティーがSランクに認定されるためには、実力や実績の他にも、ギルドとの信頼関係、冒険者としての経験も必要だと言っていた。そして本来なら今の俺たちではSランクにはなれないはずだと。Sランクになれたのは国が関与している恐れがあると言っていたが――果たして俺たちをSランクにして国が何の得をするんだ?)
レオンは向かいのベッドに視線を向けた。
そこにはフィーアが腰掛け、こちらの様子を覗っている。
「フィーア、Sランクの件に関して、ギルドマスターのバーナスから何か聞いていないか?」
「今回のことは異例だと仰っていました。それで私も気になり、アインスにそのことを伝えて色々と調べさせております。Sランクの件は調査結果が出てから、ご報告をしようと思っておりました。誠に申し訳ございません」
(それで直ぐに知らせなかったのか……)
「謝る必要はない。私に要らぬ心配をさせまいと、お前なりに気を使ったのだろ?」
「はい、仰る通りでございます」
「では何も問題はない。それで調査はどこまで進んでいる?」
「王国が冒険者ギルドに多額の支援金を送り、その見返りとしてSランクが決定されたようです」
「随分と簡単に容認したな。厳正な審査があるのではなかったのか?」
「それに関しては獣人を殲滅させたことが大きな要因になったようです。冒険者ギルドも、それだけ大きな戦力は見逃せなかったのでしょう。早めに冒険者ギルドに取り込みたいという、ギルド側の思惑もあったようですから……」
「やれやれ……。冒険者ギルドの厳正な審査とは、所詮そんなものでしかないということか。冒険者ギルドの思惑はよいとして、王国はなぜ我々をSランクにしたがっている?王国にどんな利点があるというのだ」
「Sランクの冒険者は他国にとっても脅威になります。どうやら王国は、Sランクの冒険者を数多く抱え込もうとしているようです。まだ調査の途中ですので何とも言えないのですが、アインスの見解では、後から支援金のことを持ち出し、恩を着せるつもりではないかと。それを理由に我々を王国に留めるつもりかもしれません」
(なんだそれは?こちらが望んでもいないことを勝手にしておいて、それを餌に王国に留めるだと?)
よくもそんな身勝手なことを考えるものだと、レオンは呆れ返るばかりである。
「何とも恩着せがましい話だな。私はSランクを望んでいないというのに」
「如何いたしましょうか?レオン様がお望みなら、力尽くでも阻止致しますが」
「まぁ、放っておいても問題はないだろ。私の拠点もこの国にある。当面この国から拠点を移す予定もない。尤も、王国から依頼が来ても受けることはないだろうがな。そうなると後はパーティー名か……」
レオンが顔を伏せて考え込んでいると、フィーアがある提案をする。
「レオン様、パーティー名は
それはレオンも考えていた。だが、同時に他のプレイヤーにも見つかりやすくなり、危険が大きく増すことになる。何より
「確かに私もそのことは考えていた。だが、
「レオン様にとって
フィーアの言っていることは一理ある。
友人たちが必しもこの世界に来ているとは限らない。だが、もしもこの世界に友人たちが来ているとしたら――
そして、こうしている間にも他のプレイヤーに殺されているとしたら――
(そうだよな、優先すべきは仲間たちとの再会だ。仲間と合流できたら事情を説明して謝ればいいだけじゃないか。こんな簡単なことなのに、俺は何を迷っていたんだ)
「フィーアの言う通りかもしれないな。私は少し考え過ぎていたらしい。助言を素直に受け取り、パーティー名は
「はい、それがよろしいかと。きっとご友人の皆様にも分かっていただけると思います」
「うむ、では善は急げだ。宿を引き払ってメチルの街に戻る。クライツェルの足止めを確認できた今、もうこの街に用はないからな」
「では直ぐに出立の用意をいたします」
レオンとフィーアは宿を引き払うと、路地裏に入り屋敷へと転移した。
その足で直ぐにバーナスの下に赴き手続きを済ませる。その際、冒険者の証となる鉄の腕輪に
屋敷への帰り道、レオンは腕輪に刻み込まれた文字を見ながら、嘗ての仲間に思いを馳せる。
これでまたみんなに会えるかも知れない。そう思うとレオンの表情には自然と笑みがこぼれていた。
その後、ベルカナンの街では、レオンが宿を引き払ったことにミハイルたちが驚くことになる。
そして夜這いに来たシャインはと言うと――
「ケネス!レオンさんは宿に泊まると言いましたよね?どういう事ですか?もう既に宿を引き払っていましたよ」
「どうと言われても困るのですが……。そんなことで私を真夜中に呼んだんですか?」
「ふぁぁ」と、欠伸をするケネスを見て、シャインの機嫌は悪くなるばかりだ。
「そんなことですって!私の将来が掛かっているのに何ですかその態度は!私より強い剣の使い手は、この国ではレオンさんしかいないんですよ!やっと巡り逢えた理想の人なのに、それなのに……。う、うう……」
机に突っ伏し呻き声を上げるシャインを見て、ケネスは心底迷惑そうに肩を落とす。
「シャイン隊長、言いたいことは分かりますが、こんなことで私を呼ばないでください。過労死って言葉、ほんとに知ってます?もう帰ってもいいですよね?」
「う、うう、レオンさん……」
ケネスは埒が明かないと、そっと部屋を後にする。
だが、翌朝には直ぐにシャインに呼び出され、何故か説教を受ける始末である。その余りの理不尽さに、ケネスがぼやいたのは言うまでもない。
数日後、過労で倒れる羽目になろうとは、この時のケネスは知る由もなかった。
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