侵攻⑨
砦に近づき過ぎては魔法に巻き込まれる恐れもあるため、レオンはサラマンダーの歩みを止めた。
ツヴァイはレオンの視界を遮らないよう、鞍から少し離れた場所で砦を見据えている。
レオンが少し視線を逸らすと、ツヴァイの魔法服――スカート――の裾がはためき、純白の下着が見え隠れしていた。
(無地の白か……。清純そうなツヴァイにあってるな)
レオンがそんな阿呆なことを考えている間も、ツヴァイは砦の城壁を鋭い目付きで睨みつける。
国境の砦より小振りとは言え、獣人を八千も収容できる大きさだ。砦の直径は一キロを優に超えていた。
また、その分厚い城壁は並大抵の魔法ではびくともしない石造り、例え宮廷魔術師が束になっても破壊は困難を極める。
そう並大抵の魔法では……
ツヴァイは自らの魔力を高めるために意識を集中する。
静かに目を閉じ、ただ目の前の敵を排除することだけに全神経を注いだ。
「スキル――〈
ツヴァイは
次いで
レオンは思考が追いつかないのか目を白黒させながらツヴァイの行動を見ている。
それもそのはず、いまツヴァイが行っているのは、持久戦になることも想定した本気の戦闘モード。
そんなことをしなくても、ツヴァイの魔力であれば強力な範囲魔法を一撃入れるだけで事足りるからだ。
レオンは訳も分からず呆然とツヴァイの様子を眺めていた。
ツヴァイは準備が整うと瞳を見開き標準を定める。砦の一点を見つめ、狙いを定めた場所を杖で指し示しすと、次の瞬間、ありとあらゆる属性の攻撃魔法が叩き込まれた。
「[
上空から降り注いだ光の柱は、瞬く間に炎に変わり砦全体に広がっていった。
砦の獣人は焼け崩れ、砦自体もその姿を保っているのがやっとの状態。
その直後、砦の中心部に膨大な熱量が突如として出現する。圧縮し押し固められた熱は行き場をなくして大爆発を起こした。
轟音とともに猛烈な勢いで衝撃が起こり、建物は次々と灼熱に飲まれ、崩れ落ち、遥か彼方へ吹き飛ばされていく。
衝撃で砦は跡形もなく消え去り、レオンの下にも灼熱と岩の塊が押し寄せてくる。それでもツヴァイは一歩も引かない。降り注ぐ岩を片手で薙ぎ払いながら、何事もないないかのように魔法を唱え続けていた。
サラマンダーは人間程度の大きさの岩では、びくともしない上、炎への完全耐性もあるため、涼しげな顔で砦に視線を向けている。
レオンはダメージを無効化する装備品を身に着けているため、魔法の余波でダメージを受けることはない。ヒュンフを庇うようにじっと鞍に跨り、消え去った砦をぽかんと口を開けて眺めていた。
(……や、やり過ぎじゃない?)
だが、ツヴァイの魔法はまだ終わってはいない。
雷撃を纏った光の柱が地面を穿つ。
上空に出現した
更に追い打ちを掛けるように
次にツヴァイが唱えていたのは
更には鎌鼬を纏った暴風雨、超広範囲魔法の
対象物は既にないため、もはや何に魔法を放っているのかさえ分からない。
探知魔法でも砦付近の生命反応は全て消失している。レオンは我を取り戻すと咄嗟にツヴァイに声を上げた。
「ツヴァイ!魔法をやめろ!」
そこでツヴァイは杖を下ろした。
様々な魔法による弊害だろう。いつの間にか太陽は厚い雲に覆われ、辺りは薄らと暗くなっていた。爆裂音が鳴り響き炎が高らかに上がる中、ツヴァイはレオンに振り返り小首を傾げ、「もうよろしいのですか?」と、訪ねてきた。
後方から舞い上がる炎でツヴァイの体は真紅に染まる。それは血で染まったかのようにツヴァイを不気味に見せていた。
標的が既にないのだから魔法を放つ意味は何処にもない。レオンは呆れ半分の溜息を漏らす。
「ああ、もう必要ない。ご苦労だったな」
「苦労などございません。レオン様のお役に立て光栄にございます」
労いの言葉を掛けられたツヴァイはスカートの裾を持ち上げ優雅に一礼する。
レオンは嬉しそうに微笑むツヴァイに少し困ったように眉尻を下げた。そして変わり果てた砦に視線を移す。
地表には幾つものクレーターが出来上がり、砦の残骸が広範囲に及んでた。
後ろを振り返り草原を見渡すも、其処には嘗ての緑はない。灼熱の熱風により、見渡す限り全て焦土と化していた。
その光景を見ながらレオンは思い出す。
(そういやツヴァイを創る時に厨二全開で変な設定にしていたな……。なんだっけ?確か主の敵を全力で粉砕するミラクル魔法少女だったか?攻撃対象が消滅しても攻撃し続けるとは……、ミラクルにも程があるだろ?今度からは使用する魔法や回数を指定しないと駄目だな……)
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