3−02/魔王様、足りぬを知る
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ここは、どこにでもあるごく普通の魔界。
彼女は、666代魔王・ヴィングラウド。
人間界侵略を試みた最後の魔王との戦いから幾星霜、地上は平和になって久しく。
長らく世界間の交流が断絶されていたせいで、魔界のフレンズたちが
それこそが、人間界で大ブームの短文発信魔導アプリ・マジッターを用いた、【人類危機情報発信を装った恐怖・絶望の発生・拡大・蔓延策戦】なり。
人が自分たちの生活を豊かにする為の道具を逆手に取るという悪魔的発想、まさに魔族な計画は結構前にスタートし、だが、ヴィングラウドはそこで新たな問題に立ちはだかられていた。
結論から申し上げてしまうと、人間はここ百年ほど見ない間に、魔族でもドン引くことを(主にネット上で)仕掛けてくるヤバい奴らに進化していたのだ。
真に受けられない破壊計画。
スルーされるぞ絶望の幻惑。
そして、
【@666vin うわ、出た、魔ッチョ。あたしこれ嫌いなのよね。食事バフは使いづらい闇属性だし三割の確率で呪われるし 勇者アレン@精霊グル飯素材収集中】
ザ・
絶望の発信に対し日夜投げつけられる数多のクソを歯ぎしりしながら凌ぎつつ戦ってきたヴィングラウドだったが、彼女は先日、新たなる賢知へと到達していた。
作戦コード【銀幕の幻惑】作戦——その教訓から得たものこそ、
『絶望は多くの口から拡散されたほうがより深く早く行き渡るのだし、まずは焦らず、ヴィングラウド・アカウントのギルメンを増やしていこうではないか!』
目的は、依然変わらず。
されど、その道程に余裕と優雅を。
伝説の
——だがしかし、ああ、悲しいかな。
マジッター民は時としてちょろスギのきらいこそあるが、一見わけのわからない・理解不能な領域のトンデモが
軽く方針を転換したポッと出が、一朝一夕に長期的な人気者になれるほど、マジッター界隈は断じて甘くはないのであった——!
★☆★☆★☆★☆
「おさらいをしましょう、魔王様」
玉座から降り、互いに敷物を敷いた床に対等に座る——“腹を割って話そう”モードになったズモカッタが言う。
「大きく括ってしまえばひとつの容れ物に見えるマジッター界にも、実は、様々な“
「ぶ……
「左様」
神妙に頷く忠臣を緊迫した様子で見ながら、『おなかがへって魔力が出ないよう』と涙目になった主君を慮りズモカッタが手配、四天王兼魔王城専属シェフが取り急ぎ冷蔵庫にあったありあわせの材料で作ってくれたサンドイッチをもりもり食べるヴィングラウド(最大HP・ATK・DEF+5%/30min.)。
「たとえば地上、人間界と一口に言っても、そこには三つの大陸と六大王の統治があるように。マジッター界隈にもまた、それぞれに異なる“色”がついている」
「色……が、色々!」
「それマジッターでは絶対に発言しないでくださいね?」
ドヤ顔が引き攣り、今まさに脊髄反射で打ち込みかけていた文章が止まる。
「や、やらんですけどそんな
「種族も、言語も、年齢も、性別も、住処も異なる者たちが、様々な垣根を超えて集う魔力通信空間。重ね重ねマジッターとは驚異的な発明ではありますが、それは今回さておいて。この仮想空間で、
もぐ。
口に運ばれていたサンドイッチが半分咥えられた状態で止まり、左右に首を振るようにして魔王様が
そして、
「————ッ!」
ももももももぐ、と素早く咀嚼・飲み込んだ後、活き活き爛々輝く眼で、
「——敵地攻撃の橋頭保。拠点の開設、であるな」
「御見事」
ズモカッタの指が、ヴィングラウド口端のパンくずを取り、ナプキンにくるんで落とす——
——すると、ナプキンは敷物の上に落ちる前に、幾重にも折られ、折り紙の砦を形作っていた。
「勢力を拡大せんとするならば、土台の確保こそ何より重要。足場を固めずして、方々に手は伸ばせず、満足な活動もままならない」
「……つまりだ、百妖元帥ズモカッタ。鮮やかなりし色彩を繰る、幻惑の練達よ。おまえはこう言うのだな——」
表情に、苦々しいものが混じる。
しかし、彼女はもう、昔の未熟な魔王ではない。
それを口にすることを恐れず、自ら、認める。
「マジッター・アカウント、666代魔王ヴィングラウド——ID:666vinは、まだ、“何者でもない”のだと」
忠臣は、主の意向を察すればこそ、侮辱にも等しい首肯を行う。
「——恐れながら、遺憾ながら。ヴィングラウド陛下、貴方様は微塵の疑いなく我が主で、魔界を統べる魔族の王でありますが——」
「この身、この存在。こと、マジッター界隈に於いては、“普段からなんかヤベーこと言ってる中途半端ななりきりアカウントのやつ”でしかない……のだな、余は」
胸中の苦みを押し殺すように、魔王が魔界コーラ(ゼロカロリーじゃないやつ)を飲む。
そうだ。
これこそ、魔王がうすうす知ってはいたがなるべく気付いていない状態でいたかった残酷な真実。
「——あの、【闇の衣】事件。たとえば、見事に余の力を跳ね返して見せた24人の魔王ならぬ魔王共——何より、ポポーラ氏……いや、既にポポーラ“師”と呼ぶに相応しいあのお方と違い、余には、666代魔王ヴィングラウドには——足りておらぬのだ! そう、」
空のコップが床に叩きつけられ、
そして、叫ぶ。
「多くの固定ファンが付くほどの、コンテンツ
知ってはいても、認めたくなかった痛み。
勇者に光の剣を刺された時でもこれほどではあるまいという声が、玉座の間に木霊した。
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