2−12/魔王様、ザ・ムービー(序) いつかはゼッタイ シュジンコウ


 ★☆★☆★☆★☆


 それは、何の前触れもなく、人間界へと降り立った。


 事の起こりは、不安から。

 いわゆる【魔王系】ジョークアカウントのひとつ、【666代魔王ヴィングラウド】を名乗るアカウントに、突如、無言で投下された一枚——見たこともない醜悪な怪物が群れをなし、平和な街と、人間を襲う様を捉えた画像。

 滲み出る不吉たるや偽物とは思えないほど凄まじく、投稿者から何の説明も無いことが更に不気味さを煽り立て、広がった騒ぎはついに、マジッター運営までも腰を上げる事態となる。



【こちらマジッター運営局、賢者ギルド第七席イータ・ディマンシーです。先の666代魔王ヴィングラウド様の発言意図に関しては現在こちらでも確認と調査を進めておりますので、マジッターユーザーの皆様におかれましては、どうか冷静な発言を心掛けますようお願い致します  七席イータ・ディマインシー】



 にわかに発生した話題Buzz

 マジッタートレンドランキング九位にも【♯ヴィングラウドForF】がランク入りし、多くのユーザーが日常の片手間にちょこちょこと、或いは炎上まつりの予感に張り付いて、それぞれの思惑で事の成り行きを見届けんと注目し、

 画像投下から、経過すること六時間後。



 マジッター運営を含む無数のリプに何一つ返事をしなかった【666代魔王ヴィングラウド】が、長き沈黙を破り、諸回答傍点を投下した。



 そこには。

 そのつぶやきは文章ではなく、画像でもなく。

 ▶️がついている。

 再生時間が書いてある。


 ある者は自宅で、ある者はカフェで、ある者は警備仕事をサボっての物陰で——奇妙な好奇心を抱えながら、不謹慎な興奮を覚えながら、祈るような不安を抑えながら、得体の知れない、魔が封じられし箱を開ける気分で、


 ▶️をタップし、

 最初に、

 声が聞こえた。



「ねえ、モカくん。やっぱりきみの言う通り、所詮クロっていうのは、正義シロをカッコよくするための、ツゴウのいいやられ役なのかもしれないね」


「でも、だとしても。それでも余は、余の中にある、闇の力を信じるよ」


「だって——ハイマチ=ヴィン子は、この世でひとりの【魔王少女】だもんっ!」



 ラブリーヴォイス&チャーミーソング。

 言葉を契機に、世界が色付く。


 画面に映し出されるのは、月満ちる王都の夜、決意に満ちた顔で、時計塔の頂上に立つ少女——そして、右下に表示される【♪ChaosMagical by666代魔王ヴィングラウド】が示す、


 歌が。

 音楽が。

 主題歌が、流れ出す。



『いつかはゼッタイ————シュジンコウッ!』



 そうして。

 映像と音声、夢幻の彩りを組み合わせ———物語が、生まれる。


 3分30秒のムービー。

 その向こうにある“もうひとつのセカイ”が、

 花咲くように、幕開く。


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