2−11/魔王様、ミーツ、モカP


【@magieater うっわ運営さんまで出た、ご苦労様ですマジレス乙です。つうかマジになってる皆さん、どこのまとめで見てきたんだかなんか真に受けちゃってる新参の方々みたいっすけど、魔王ヴィングラウド陛下(笑)がいつもどんなこと言ってるアカウントか知ってます?  勇者アレン@イフリ山攻略中】


「————あ」


 脳裏に。閃く、流れ。

 全てを焼き尽くす無慈悲な光に——垣間見えた、一筋の闇の道。


「勇者に助けられるなど不愉快極まるかもしれません。しかし、ここはこう考えればよろしいかと。——古参ぶって、いい気持になっているこいつの発言を、まんまと利用してやるのだと」


 手に力が籠もる。

 笑いが、無理矢理な虚勢から、抑えられないものへ変わっていく。


「布石は足りる。流れは出来た。必要な分は、ここから用意すればいい。では、魔王様」


【本当】を、【嘘】で覆いにいきましょう。

 その言葉とともに差し伸べられた手を、


「————うむ!」


 掴まずに、自らの力で立ち上がると、魔王ヴィングラウドは指を鳴らす。


 遠くのほうで、もぞりと動いた。

 先程動揺したズモカッタが落としてしまった、一日限定五個、魔界の一番街で売り切れ必至の大人気商品、オリハルコンシュークリーム——床に落ちて無残に潰れていたそれが、シュー生地の一片、クリームの一粒まで事象を遡るように元に戻ると、広げていた掌に飛んできてすっぽり収まり、ヴィングラウドが大口を開けてかぶりつく。


「うまい! やはり大仕事の前に、腹ごしらえはかかせぬな! でかしたぞズモカッタ、さぞかし列に並んだことであろう、その努力、活躍、忠誠を余は認める! 汝こそ、やはり代わりなど考えるべくもない右腕である!」

「ヴィングラウド陛下……」

「で、あるから、だ! 二度と、責を負って処刑の嘆願など口にするな! 約束せよ! ——そして、それを受けるのならば、余もまた一つ、汝に誓おう」


 シュークリームの最後の一口を放り込み。

 それから彼女は、ほっぺたにクリームをつけたまま、それにも気付かないほどの集中、そして、決断を以てして、


「————ごめんなさいっ! 今度から、ひとりで勝手なことはしません! 約束は、絶対ぜったい守りますっ! 人間界征服は、666代魔王ヴィングラウドと——汝と二人一緒の野望だ、我が忠臣にして無二の友、百妖元帥ズモカッタッ!!!!」


 それは。

 666代を重ねる魔王の長き歴史でも、有り得ない宣言、誓約、関係性。四天王と魔王の、同等にして懇意なる、友情。


 だから、頭を下げたままのヴィングラウドは、訪れた沈黙を、困惑だと判断した。

 さしもの、普段は飄々としたところのある、けれど根はとてもまじめなズモカッタも、この発言には——魔王らしからぬお願いには引いてしまっているのではないか、という不安が、徐々に、徐々に湧いてきて、それに押される形で思わず顔を上げて、


「——ぁはいカットッ! 流石です魔王様、思い切りがいい発言をいただきました! このズモカッタ、今まさに、最後の不安が爆発四散しましたとも! これならば必ずや、全王国民を号泣の海に誘えますとも!」


 いつのまにかどこからか出していた録音機材一式を抱え、こちらにマイクを構えていたグラサン装備のズモカッタを見た。

 言葉が出た。


「百妖元帥」

「はい魔王様早かった」

「なんでそんなん持ってるの」


「こんなこともあろうかと。ちなみにこれから始まる本作戦終了までは、私のことはモカPとお呼びください。三番スタジオのほうもこんなこともあろうかとで押さえてありましたので、詳しい話はそちらのほうに移動しながらしましょうか。各種族に声をかけ急遽お集まりいただいた敏腕スタッフが、まだかまだかと待っております」


「はいどうぞ」と渡されたマイクを「おっす」と受け取り「あーあーテステスあーテステス、んっんんっんんんっ、ドレミファソラシドイアシュブニグラス、アーカム赤いなアポクリファ」喉と舌の調子を整え、しかる後に、


「どんなことだよ!!!!」


 イイ声で叫んだ。

 悪魔的に通る声だった。



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