第六章 領主準備編

第一話 順調そのもの

本日中に、第六章の第一話から第二十三話まで投稿します。

一日で二十三話の投稿となりますので、読み飛ばしのないようご注意ください。


※追記※

すみません。本日中に全ての投稿は無理そうです。

ひと月程前から始まった右瞼の痙攣が酷く、目を開けているのがきついです。

明日、四月八日に第二十一話から二十三話を投稿し、完結となります。



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 ”新年の儀”当時を迎え、俺達には・・・・別段問題もなく終了した。

 かといって、俺達以外に何か事件が起こったわけでもなく、地方の在地貴族が王国貴族になったことで、様々な憶測が飛び交っただけだ。

 それは想定されていたことなので、アルトゥールも何ら問題視していない。


 俺に関しては、『王弟子飼いの冒険者』として噂が広まっているが、初めて公の場に姿を現したことで、「あんなガキが強いはずがない」「噂通り姉が優れているのだろう」などと言われる有様。しかしそれは、間違った噂の信憑性が増したことに他ならない。


 念の為、ひっそりと両親や姉達に護衛が付いたが、あまり仰々しくはしていない。


 そんな渦中の両親は、俺の所為で更に名声を得た姉達の案内で王都の観光や買い物を満喫し、名残惜しそうにヴィンター・・・・・騎士爵領であるアインスドルフへと帰って行った。

 俺達もブリッツフォルテに戻るのだが、俺がアルトゥールとの打ち合わせを行なう関係上、もう暫く王都に滞在しなければならないため、両親とは別行動になった。

 とはいえ、自己強化魔法で駆け抜けるので、俺達の方が先に到着するだろう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「随分と作業が進んでるようだな。流石だよアルフレード」

「いえ、ディアナや魔法使いの皆さんが優秀だからこそです」


 約二ヶ月ぶりに戻ったブリッツフォルテは、想定以上の速度で形作られていた。

 これもひとえに魔法のお陰なのだが、魔法使い村からの応援が思いの外多く来てくれているため、進行状況が想定を上回る結果となって表れている。


 それでも、真の立役者はアルフレードだろう。彼は魔法が使えなくとも内政官として学んだ知識を活かし、魔法使いに適切な指示を出し、全てを統括してくれていたからだ。


「では、説明しますね」

「頼むよ」


 俺の意見を取り入れつつ、アルフレードが監修した実際の街を見て回る。


「領主館は、神殿を掘り出した際の土を再利用し、丘を作ったその上に建てます」

「予定通りだね」

「とは言え、母屋はブリッツェン様がご自分でお作りになられるので、現状は従者用の施設などしか建てていませんが」

「いやいや、整地がされているだけでも十分だよ」


 街の中心である湧き水を利用した噴水。その噴水の周囲が公園になっており、その北が俺の住む領主館となっている。

 俺としては、威張り散らすかのような豪邸は嫌なのだが、領主館は権威の象徴であると共に、いざというときの避難所でもあるため、十分な敷地と施設が必要だとアルフレードに言われ、かなりの面積が宛てがわれている。


「次は公園の周囲ですね。各ギルドの建設は予定地を用意してありますが、建築はまだ行なっていません。現状はこちらの行政関連の施設を優先しております」

「優先順位はアルフレードの判断でいいから」

「ありがとうございます。では、基幹道路の説明ですね」


 俺としては、中央の公園を中心に八方向に道を伸ばしたかったのだが、北に位置する領主館がかなりの敷地面積を有するため、北を除いた七方向に基幹道路を伸ばすことになっていた。

 その基幹道路だが、車道を二十メートル、歩道を各五メートルの計三十メートルの幅に設定してる。別段、車道と歩道を区切っているわけではないが、そう想定しての数値だ。

 しかし、ブリッツフォルテは交易都市であることから交通量を多く見積もり、西のレーツェル王国、東のシュタルクシルト王国内を繋ぐ東西の道は、思い切って五十メートルの幅にしたようだ。


 俺としては、それはやり過ぎだと思ったのだが、軍を出兵させることなどを考慮すると、本当はもっと幅が欲しいとアルフレードに言われ、これ以上広げられるのが嫌だった俺は、『現状維持で』とお願いした。


 各区画については、予定通り領主館のある北部の更に北を貴族街的な場所とした。

 基幹道路の中でも一番大きな東西線の通り沿いは、商会や宿などの商業区とし、南は鍛冶などの職人区。その更に外周は、街で働く住民の居住区となる。

 農地や農民の住居は、砦を包括する大きな外壁を用意するので、内壁とその間の土地を与える。

 この世界の農民は、外壁の内側に住居を持ち、農地は外壁の外側にあることが多いのだが、ブリッツフォルテは王都ばりに内壁と外壁の二重構造にする予定なので、農民には農地と居住区をセットで提供する。


 軍事施設的なものは、西の砦と内壁の間に用意し、東西南北等の各門の周囲にも兵士の居住区などを用意する。


 また、この世界の都市部では地下にトンネル掘った下水道が作られているので、ブリッツフォルテでもしっかり整備している。


「これだけ大掛かりな作業ですが、魔法使いは凄いです。短期間でここまで整えてしまうのですから」

「パッと見だと建築物が少なく見えて、まだ全然って感じだけど、地下とか見えない部分の進行速度を考えると、ちょっと異常なくらい速いよね」


 魔法使いに尊敬の念を抱いているアルフレードに、せっかくなので魔法を覚えたらどうかと言ったことがあるのだが、やることが多過ぎて修行する時間がないと断られたのだ。

 実際、魔法使いが現場の作業を手伝ってくれているが、頭脳労働をしているのはアルフレード只一人。なので、アルフレードを手伝える文官が欲しくはあるが、魔法の存在を秘匿している現状、補充できないのが悩みの種であった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ブリッツフォルテの開拓は順調そのものだ。

 シェーンハイト達やシュヴァーンの皆も、戦闘的な魔法ではなく開拓に便利な魔法を覚え、魔法の修業をしつつもすっかり作業員として開拓の戦力になっている。

 俺も自分で領主館を建て、外壁など巨大な建造物も手掛けているので、戦闘のことなど忘れてしまいそうなくらいだ。


 しかし、だいぶ形になってきたブリッツフォルテではあるか、ここに住む肝心な住人がいない。魔法で作業をするためにそうしていたわけだが、想定以上の作業速度で街ができてくると、そろそろ住人を迎え入れたくなる。

 だがそのためには、大掛かりな準備をしなければならない。


 ブリッツフォルテとアインスドルフの間にある伏魔殿の平定、である。


 ブリッツフォルテが伏魔殿だったときは、周囲が全て伏魔殿に囲まれていたため、狩りきれなかった魔物が出て行くのを気にしなくても良かった。だが、今回は狩り漏らしがあるとアインスドルフに逃げ出されてしまう。

 そうならないよう、ただ伏魔殿を平定するのではなく、魔物の殲滅も必須事項である。


 そこで今回の伏魔殿平定は、アインスドルフを平定したときのように、ボスの討伐が完了するまでは俺達だけが伏魔殿に入れるようにし、その後に冒険者たちに残党狩りをしてもらう。

 これにより、アインスドルフに冒険者を集め、アインスドルフを活性化させる。

 父が王国の騎士爵を賜ったことで、冒険者ギルドがアインスドルフに設置された。これは裏でアルトゥールが手を回してくれたのだが、周囲に多くの伏魔殿のある地で、冒険者ギルドがあるとないでは大違いなため、非常にありがたい。


 また、王国の騎士団は王国の直轄地でなくとも、伯爵以上の領地では常時駐在する決まりがある。騎士爵の父には関係がない。

 だが、領主からの要請があり、王国がそれを認めた場合、子爵領以下でも王国騎士団を駐在させられる。


 各領地に駐在する王国騎士団だが、基本的には領主の指示で行動をする。ただ、人事権は騎士団を擁する軍務相にあるので、領主の意向に関係なく人員の入れ替えなどが行なわれるのだ。

 また、騎士団員の給金自体は王国側が支払うのだが、駐在地で生活する場であったり、武具の手入れなどの費用等の一切を領主が持つことになっている。

 更にいうと、騎士団はまだ騎士に任命されていない、『騎士見習い』の方が人数が多い。


 そんな騎士団だが、正式な騎士は王国から騎士爵の爵位を賜っている。そして、中には男爵位や子爵位を賜っていたり、下手をすると伯爵家の当主がいたりすることもある。

 そうなると、爵位が対等以上の騎士に対して、領主は命令がし辛かったりするのだ。


 ある意味金食い虫である王国騎士団。しかも人事権がないので領主以上の爵位を持つ者が駐在する可能性があり、扱い辛いことを考えると、敢えて自分から招き入れる子爵以下の領主は珍しい。

 だが、俺の領地はいずれ公爵領となるため、強制的に騎士団を駐在させることになる。そのため、騎士団を手懐ける意味合いで、まずはアインスドルフに駐在させることになっている。


 ブリッツフォルテはレーツェル王国と行き来をするので、いくら同盟国とはいえ他国の者が街の中を闊歩する。そうなると、ちょっとしたいざこざや、場合によっては大きな問題に発展する可能性もある。

 小さな問題を起こさせないよう領都を守る兵士が必要になるが、早急に領兵団を作るのは難しいので、王国騎士団が目を光らせる必要があるのだ。


 また、それとは別にアルトゥールが直接命令を下せる戦力を確保する意味合いもある。

 本来であれば、その役目は自前の領兵団が請け負うのだが、それがなくても、騎士団の人事権を握る軍務伯であるヴィルヘルムを従えているのがアルトゥールだ。そのため、都合の良い人材を騎士団員に任命し、その者を手駒にできるのだから、この意味は大きい。


 そんなわけで、今回の残党狩りにはその騎士団も投入する腹積もりなのだ。


 めっきり戦争の減った昨今、騎士団の仕事は戦争などの対人戦がほぼない。専ら、街道周辺の獣や盗賊の駆逐などが主な任務なのだが、一般開放されていない伏魔殿で魔物を間引くのも仕事の一つとなっている。

 そしてこの魔物を間引く狩り。詳しくは知らないが、なぜか騎士団に人気の仕事なのだという。

 なので、残党狩りに騎士団を投入することで騎士団員は喜び、魔物が溢れ出す可能性も減らせるのだから、まさに一石二鳥なのである。



「伏魔殿平定の随行員ですが、こちらの関係者は確定として、魔法使い村の方は誰が参加するのですか?」


 本来、冒険者ではないシェーンハイトや双子、更にアンゲラは、所有者の許可が無ければ伏魔殿には入れない。

 それでは毎度煩わしい手続きをしなければならないので、以前、アルトゥールが裏で手を回し、彼女らに冒険者の資格を与えてくれていた。なので、面倒な手続きは省力できている。


 アルトゥールは権力を傘にやりたい放題な気もするが、逆に言えば権力があればやりたい放題できる世界なのだと、認めたくないが認めざるを得ない。それに、王国民ではない魔法使い村の住人を使役している時点で、俺も大概なのだから……。


「今回の伏魔殿は厄介な魔物はいない地じゃ。儂、それからディアナとモルトケ、その弟子のジェニーとフロリアン、ロルフで良いじゃろう。戦闘は若い者にやらせ、儂らは補佐する感じじゃな」

「俺も補佐ですか?」

「全体の状況を把握し、指示を出すのも修業の一環じゃ」

「わかりました……」


 ここ暫くは土木作業ばかりしていたが、その作業で魔法陣を多用していたお陰だろうか、魔法陣を使用してならば放出魔法が良い具合に使えるようになってる。

 何気に今回の伏魔殿平定では、放出魔法での戦闘を試したかったのだ。しかし、師匠に言そうわれてしまったからには、大人しく補佐役をやるしかない。


 自由に生きるのも儘ならない……と悲観しそうになったが、ここは前向きに、『隙きあらば砲撃魔法を放ってやる』と思い至る俺なのであった。

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