第24話 正しい薬の作り方

オーレルが来店した翌日、店に珍しい客が現れた。

「……先日は済まないことをした」

入ってくるなりカウンターの前で頭を下げるのは、例の薬屋だった。

 ムスッとした態度からすると、大方オーレルにちゃんと謝罪しろとでも言われて来たのだろうか。

 ――それでも、謝りに来ただけマシか。

 本当に反省していなければ、きっと無視するだろう。


「あと、薬草の群生地を見つけてもらい、感謝する」

群生地の話もされたということは、砦で細かい契約のアレコレが決まったようだ。

 ずいぶん急いだと思うが、それだけ薬草の件は急務だったということで。

 ――もしかして、ゴネればもっとお金が貰えたかも?

 ヒカリの中にそんな考えが浮かぶが、欲の掻き過ぎは禁物だ。

 きっとロクなことにならないし、第一自分は魔女の修行のために、ここにいるのだ。

 金儲けに走るのは良くない。


「薬がなくっちゃ街の皆が困るから、がんばって薬を作ってよね」

ヒカリはお金に走りかけた自信を誤魔化すために、胸を反らし気味にして薬屋に声をかけた。

 この言葉に苦い顔をしていた薬屋が、「実は……」と切り出す。

「あの薬草をどう使えばいいのか、わからなくてだな……」

なにせ葉の方が毒草として有名なため、扱いに悩んでいるという。

 今まで通りに瓶詰するのはさすがにダメだというのは、さすがにわかるらしい。


「根っこの方が大事だと騎士から聞いたが、信じられなくて」

この薬屋の言い分も、ヒカリだってわからなくもない。

「まあ、形が怪しいもんね」

人参もどきの見た目は言わずもがな、山芋やほかの根菜類だって初見では怪しむだろう。

 門外漢の騎士言うことを鵜呑みにできず、毒だったら困るので安易に色々試せず。

 苦悩の末にヒカリの元へやって来たらしい。

 頭を下げて教えを請いに来た相手を、追い返すのは躊躇われる。

 なのでヒカリは、オーレルにも味見させた人参もどき茶を、薬屋にも出してやった。


「このお茶は、コレね」

ヒカリは人参もどきを手に取って説明する。

「あそこの薬草はね、大体全部根っこだけを使うの。今までのみたいに潰さないで、小さく刻んで干したものをお茶にして飲んだり、まるごとお酒に漬けて飲んだりするのがいいかな」

「……なるほど」

話を聞いた薬屋がお茶の見た目を確認した後、じっくり味わって飲む。

「それほど苦くないな」

「あの草汁に比べればねぇ」

薬屋の味の感想に、ヒカリは苦笑するしかない。

 しかし、これは間違いを正すチャンスかと閃く。


「一応言っておくけど、葉っぱごと瓶詰めするのは止めた方がいいよ」

「なに?」

ヒカリの言葉に薬屋が目つきを鋭くしたが、怒っている雰囲気ではない。薬の作り方を教えたことが効いているのだろう。

「効能が落ちるし、エグみが増して飲みにくくなるだけだし。薬草から搾り取った液体だけが、薬になるんだから」

「そうなのか……」

ヒカリの忠告を悪口と捉えず、意外にも素直に聞き入れてメモしている。

 ――意外と根は素直なのかも。

 そんな感想を抱くヒカリの前で、薬屋がメモを見ながら唸る。


「このやり方だと、薬の量がかなり減るな……」

この問題に、ヒカリは助言をする。

「だとしても、使った薬草の量は同じなんだから、値段を変える必要はないじゃない」

薬は量ではなく、効能が大事だ。

 エグい薬を沢山飲まされるより、ほんのちょっとで効果抜群の方が、お客さんは喜ぶだろう。


 この意見に薬屋も考える素振りを見せる。

 薬が飲みにくいことは、自分でもわかっているのだろう。

 しばらくメモをじっと見ていたが、やがて顔を上げてフウッと息を吐き出す。

「何故ここの薬はこんなに薄い色なのかと思ったが、なるほどこれが原因か」

薬屋は薬瓶を手に取ってしげしげと眺めている。

 以前には色々文句をつけていたが、気にはなっていたらしい。


 ヒカリだって、逆に気になる。

「葉っぱごと薬瓶に入れ出したのは、いつからなのよ? 葉っぱごと瓶詰するなんて、私は知らなかったけど」

ヒカリの疑問に、薬屋は思い出すように宙を見つめる。

「少なくとも、俺の親父の頃はこのやり方が普通だったな」

ということは、かなり前からこのズボラ薬が流行っていることになる。

 ――なんか、大変な時に街に来ちゃったのかも。

 ヒカリは内心でため息を吐いた。

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