第三章 薬草探してえんやこら

第18話 実は密入国者

薬草を見に行く約束をした当日。

「準備ができたなら、さっさと行くぞ」

夜が明けたばかりの早朝に、オーレルが店にやって来た。

「……早くない?」

ドンドンと玄関を叩く音で起こされたヒカリは、寝ぼけ眼を手で擦りながら文句を言う。


「行動は早いに越したことはないだろう」

だがそう返されて出かける用意をしろと追い立てられ、ヒカリは仕方なく外出着に着替える。

 荷物は弁当のパンとチーズと、水筒入りのお茶くらいでいいだろう。それらを背負い袋に入れて外に出た。


「はぁ、眠い……」

大欠伸をしながら現れたヒカリを見て、オーレルがしかめ面をする。

「身軽そうなのはいいことだが、その杖はなんだ?」

その視線は、ヒカリが手に持つ杖に注がれている。

 この杖は木から枝を切り落とすところから作った愛杖で、枝の自然の造形を生かした自信作だ。


「魔女の必需品ですから!」

ヒカリは胸を張って告げた。魔女ごっこと思われようが、これを置いて出かけるなんてできない。

 ――なにかあった時に備えなきゃね!

 杖で地面をトントンと叩くヒカリが、オーレルと見つめ合う事数秒。

「……まあいいか、さっさと行って、さっさと帰って来よう」

オーレルはなにかと葛藤した後、諦めたようだ。


 一方、ヒカリも言いたいことがある。

「なんでいつもの服じゃないの?」

オーレルは、現在騎士服姿ではない。

 一般人が着るようなシャツとズボンに革の胸当てを着けて、腰から剣を下げているという、いつもに比べればラフな格好だ。


 ヒカリの疑問に、オーレルは鼻を鳴らして答える。

「休暇にまで制服を着たくないからな」

どうやら今日は休みだったらしい。

 それをヒカリの道案内に使おうというのだから、真面目なのか物好きなのか。

 ――家で寝ていてくれていいんだけど。


 お互い言いたいことはあれど、とにかく出発することにした。

 店の玄関に閉店の札を下げたヒカリは、オーレルに連れられて早朝で人がまばらな大通りを抜け、通ったことがない地区にやってきた。

「ねえ、どこに行くの?」

不思議そうに問いかけるヒカリに、オーレルは「なにを言っているんだ」という顔をした。


「門から外に出るに決まっている」

オーレルの言葉に、ヒカリは脳内に疑問符を飛ばす。

 ――門って、方向が違うんじゃない?

 首を捻りながら付いて行くヒカリの前に、やがて見上げる程に大きくて立派な門が現れた。

「デカっ!」

ヒカリが通って来た門とは規模が違う。

 もしやこちらが正門で、あちらは裏門だったのだろうか。

 だとしたらショボかったのも納得だ。


「なるほどねー」

ウンウンと一人頷くヒカリに、オーレルが怪しむ視線を向けた。

「街に入るにはこの門を通るしかない。どうして今更驚くんだ?」

ここを通るしかないなんて、そんなはずはない。

「こんな所通ったことないけど?」

今度はヒカリが「なにを言っているんだ」という顔をした。

「だって私、もっとちっちゃい門っていうか、扉から入ったし」

あんなに堂々と開けっ放しになっていた扉があったのに、ここだけということはないだろう。


 ヒカリの発言に、オーレルが何故か長いため息をついた。

「……やっぱりか」

「え、なによその反応」

眉をひそめるヒカリに、オーレルが低い声で尋ねる。

「もしかして、人が二人通れるくらいの大きさの、鉄の扉から入ったのか?」

まさしく、ヒカリが街に入った扉のことだ。

「そう、それそれ! どっから入るのか分からなかったら、扉が開いていたのよねー」

まるで昔の話のようだが、まだあれから一カ月経っていない。


過去を懐かしむ顔をするヒカリの頭を、オーレルが急に拳でグリグリしてきた。

「いたたた、痛い! なによ急に!?」

突然のことに驚きながら睨むヒカリを、オーレルは眉を寄せて見下ろした。

「そこは普段砦の者しか使わない、常に閉じられている裏門だ」

「……え?」

驚きの情報を聞いた気がする。


「だって、開いてたよ? それに誰もいなかったから、通っていいものだと思ったんだけど」

「それは門番の職務怠慢だ」

ヒカリの言葉を聞いて、オーレルが頭痛を堪えるように手で頭を押さえる。

「加えればここは国境の砦、裏からこっそり入れば密入国だ」

「はぁ、嘘でしょう!?」

さらに言われた内容に、ヒカリは驚愕する。

 知らない間に犯罪者になっていたなんて、ビックリな事実である。

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