君と違う世界

青葉芳

あの日から、「わたし」から「私」に生まれ変わったのだと、

今になって思います。




「半袖だと寒くなってきたね」

と、笑い

貴方は私の手を包みました。

「そうね」

と、笑い

私は貴方の首をなぞりました。


それは貴方にとって合図であり

私にとってはなんでもないことでした。


貴方に肩を押された私は

貴方が男だったこと

そして

私が女であったことに気がつくのです。


貴方は私の両手首を片手だけで抑えられる。

私は貴方に負けている。

身長、体重、体格、体温、

それから

力。


私が何度、貴方の名前を呼んでも

貴方は返事どころか

目も合わせてくれません。

もうだめだ。

全てを理解した私は

躾のなってない犬のように暴れるでもなく

魂の宿らない人形のように黙っているでもなく

淫らな大人のように応えるでもなく

わたしは私として

貴方を見ないようにして

夢が崩れるのを見ないようにして

必死になって

自分の顔を冷めた自分の手で隠して

早く時が過ぎればいいと

それだけを願って

貴方に揺らされるのでした。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る