第8話 彼女の瞳のアヘン窟

この街に取りつかれた女がいる

女は常に心に一人の男を思い描き

毎夜欠かさず彼の元へ

彼女は言う

自分は彼のためにあるのだと

彼のためにできることは何でもすると

ようやく見つけた大切な人だと

ようやく私の存在価値が実感できると

故に彼女は全てを理解したうえで

彼に貢ぐ

それは決して願いを聞き受けない神への

お賽銭のようだ

はかなく

くだらなく

浅はかで

愚か

彼女は多くの人に

静止を考えるように

言われただろう

しかし彼女には届かなかった

彼に恋をしてるのだそうだ

彼女にとっては恋だとしても

相手側にとっては

手持ちの駒の一つだ

いようがいまいが

大差ない

たった一人が消えようと

彼にとっては何でもないのだ

夜の街を千鳥足で揺らめく彼女

彼女の中毒症状は

医者にどうにかできるものではない

薬物ではなく

人に対する中毒症状は

一体どこで治療できるのだろうか

甘い誘惑は

彼女を深いアヘン窟へと

落とし込み

今日も彼女を

途方もない底から

呼んでるようだ

彼女はそこに金を落とし

心を落とし

そして

己の乙女が行くままに

彼に擦りよる

理性を失った眼光に

彼の笑顔が今日も輝く

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