・《僕の正義はなんですか!?》- 1.5 -


「ノゾムの計画、いまいちピンときてないんじゃがのう。」


「……ワタシもだ…。」


「やっぱり財団もじゃったか…。”スベテハクーン”の効果中に自白させなければ、効果そのものに意味はないように感じるのじゃが…。」


柊木ひいらぎは多分、伴野ばんの本人に気づかせようとしてるのよ。」


「ヒメノ、それはどう言う事じゃ?」


「柊木君は気づいたんだと思う。”伴野しげる”って男が、本当は心でどう思ってるか。柊木君は、そこらへん妙に鋭いから。」


「カナデまで…。お主ら、なんでノゾムのことがそこまでわかるんじゃ?」


「……理論は分かるんだ。要するに伴野の本心を望に打ち明けさせるってのは。でもそれになんの意味がある?記憶はどうせ消えるんだぞ?」


「そうじゃ。完全に消えるわけでもないが、よっぽどのインパクトがない限り記憶は薄れていく。しかもあそこまでの偏屈な男がすぐに改心するとも思えんの。」


「いや、教授、財団。お前達はまだ分かってないだろ。この30分間で、すでに変化は何度も起きてるってことを。」


「なんじゃと?アツシ、なんのことじゃ?」


「伴野という男は、いまじゃ傲慢で嫌われ者だ。多分本人が、それを一番理解している。だからこそ嘘をつくんだからな。でも、目の前に現れた”灰霧はいぎりのぞみ”は違う。」


「……伴野の事を、理解しようとしていた。知ろうとしていた。好きだとも言っていたな。演技だが。」


「その通り。伴野にとっちゃ、唯一自分を知ろうとしてくれている女の子なんだ。大事にしないわけがない。」


「でもあのバンノじゃぞ?さっきだってずっと一人で話してたし、態度はデカイ。とても大事にしているようには思えないのじゃが…。」


「そうかな…?むしろ、私は柊木くん…いや、のぞみちゃんを傷つけたくないように見えたけど…。」


「カナデ…?」


「怖いんだよ。あの人はきっと、自分を信じてくれているのぞみちゃんを傷つけちゃうのが。それと同時に、自分が傷つくこともすごく恐れてる。それ故の虚言で、それ故の見栄。」


「でも良く考えてみろ。さっき店に入る前、そして望が水を取りに行く時。伴野はのぞむを気遣っていた。」


「……あの伴野が…?確かによく考えると変だ。」


「たぶん、心の中では、あの人はずっと一人なんだよ。そりゃそうだよね、だってお母さんだって亡くなって、今の家に本当の居場所なんてないんだと思う。」


「……だからこそ、伴野は学校に固執していた…。自分の思うがままに”噂”を作れるあの場所を。」


「それをするだけの権力と名声が奴の親父にはあったからな。要するに伴野は、極度の寂しがり屋だったって事だ。」


「でも、かなで先輩との一件で、生徒の間には物凄い勢いで伴野の悪評が広まった。私たち一年の女子の中でも話題になる程だったから相当よね。」


「伴野にとっちゃ、自分の理想郷が壊されるのと一緒だからな。だからこそ、元凶である白沢しらさわ先輩に固執した。噂そのものを嘘にするために。』


「奏先輩と付き合えれば、振られた事そのものがなかっとことになるって算段ね…。浅はか過ぎるというかなんというか…。」


「だが、伴野はミスを犯した。それは…」


「……告白する相手が、”白沢奏”だったって事。」


「その通りだ。伴野は”柊木望”の逆鱗に触れてしまった。これが、あいつの過ちの始まりだ。」


「……哀れ…。」


「そして今、その”柊木望”は伴野の1番の理解者になろうとしている。ほんの少し前まで恨んでいた相手に対してだ。」


「……伴野は”灰霧のぞみ”という人間に心を許し始めている…。つまり…望の言っていた計画というのは…。」


「あいつは、本気で伴野を落とすつもりだ。伴野のウラに眠る、本当の気持ちを引きずり出すために。」


「し…しかし!記憶が戻らなきゃあやつはあのまんまじゃぞ!?いくら効果時間の10分で改心しても…。」


「教授。さっき、”スベテハクーン”の記憶が残る方法、なんて言った?」


「む?それは…効果時間中によほどインパクトに残ることがあれば覚えてるかも…と。」


「俺、覚えてるんだよ。実験の時の10分間。」


「な…なんじゃと!?!?!?!?」


「だから教授が、本当は好きな人がいるかどうかなんて質問してないのも知ってるし…。」


「だ!!!だああああああそれ以上はダメじゃ!!!!アツシ黙るのじゃあああああ!!!」


「教授がなぜか、目の前でジーッと俺の顔ずっと見てたのも知ってるし…。」


「だああああ!!!!おぬし!!!!なんじゃおぬしは!!!なんで黙っておった!!!」


「そしてそれが徐々に顔を近づけてくるもんだから、インパクト強すぎて覚えてるんだよ。」


「もう!!!!なんじゃ!!!アツシのバカ!バーカ!意地悪!目つき悪い!えーと、バカ!!!」


「教授…なかなかやるわね…。」


「勇気あるね…お姉さんびっくり…。」


「……どうせ結局良いところで効き目が切れたんだろうな…。」


「うるさいわい財団!!!おぬしは黙っとれ!!!」


「……シュン…。」


「そこは声に出していうのね…。」


「まあつまりだ。強いインパクトを与えれば記憶は残る可能性は高い。たとえ”灰霧のぞみ”を忘れたとしても、改心さえ残れば良いわけだ。」


「そんな上手く行くかしらね…?」


「行くか行かないかは、全て望にかかってる。おい、望!聞いてるんだろ!?」


「柊木くん!」


「柊木!」


「ノゾム…!今はほっといて欲しいのじゃ…。」


「……のぞみー!ってボケてもツッコミが飛んでこないのは寂しいな…。」


「伴野のことは任せたぞ望!御剣チームはこっちに来るよう言っておく!頑張れよ!」


分かってるってみんな。


僕は今、”灰霧のぞみ”で…。


これもある意味”のぞみん”なんだから!!!

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