・《作戦準備は念入りですか!?》- 3 -
「お兄ちゃん…。お兄ちゃんなの…?」
「いやうん…僕だけど…。」
「え、ちょっと待って。
「何を言っているんだお前は。」
変身完了。
こう言うと特撮のヒーローが変身したみたいに聞こえるが、現実はいつもの通り僕が女装しただけである。
服は
クラシカルロリータ風の可愛らしいコーディネート。
全身が淡い茶色の色使いで、少し地味な印象を受けるかと思いきや、ボーダーのニーソックスや膝丈位のフリル付きのスカートが、とても柔らかい印象を与えている。
ふわっとした出来のおかげか、女性より少しばかり逞しい男の僕の体のラインをうまく隠している。
というか、手作りこれ!?やばくない!?
さらに疑問を持つとすれば、あの人なんでこんなすぐに採寸もせず、服を作れるんだ…?
なんでも出来るのかあの人…。
「
「
「まあ…ある意味モノホンじゃがな…。」
「……意味は合ってる…。」
「おーい、聞こえてるよー。君たちー。」
誰がモノホンだ全く!
誰のせいであんな仕事に着いたと思ってるんだ!
「
「
「だって私、制服姿以外の柊木くんあんまり見た事ないし…!」
「まあ普段からこんな格好してたら社会的に終わりますし。」
「むしろ…始まる?」
「先輩も何を言ってるんだ…?」
可愛い顔して恐ろしいことを言うからなあこの人。
僕自身も、女装に抵抗が無くなっているのはまさか…始まってしまっているのか…?
「よし、とりあえず。時間も推していることだしブリーフィングを開始するぞ。」
篤志の呼び声で、全員が振り向く。
「目標は、
篤志がニヤリと笑う。
僕も、それに返すように笑う。
「俺達の憂さ晴らしだ!!!」
「うおっしゃあああああああああ!!!!」
その通り。
これは僕の憂さ晴らしに、色んな人を巻き込むワガママ大作戦だ。
「ターゲット、伴野茂とは午後3時に校門前にて待ち合わせをしてある。そこから女装した望が、御剣咲夜の待つ『御剣ホテル』へと誘導してもらう。もちろんその間に、この自白剤『スベテハクーン』を伴野に飲ませないといけないがな。」
「そういえばそんなのを作ってるって言ってたね。完成してたんだ!」
「無論じゃ。こやつの効き目は凄いぞ。アツシは覚えておらんじゃろうが、あのアツシが好きな女子の名前を言ってしまうほどじゃからの!」
「ええ!?だ…誰!?こんなガラ悪い獣みたいなのに好かれてしまった哀れな乙女は!?」
「はあ?確かに実験じゃ俺が飲んだけどよ。今のところ俺自身が好きな女子なんて心当たりないぞ?というか望、喧嘩売ってんのか?」
「むう………………。」
「……滅多にカマなんてかけない教授が、鈍感のマジレスを食らって拗ねてしまった…。」
「そーゆーとこだぞ、篤志。」
「なんで望が偉そうなんだよ…。」
話が変わってしまったが、要するに今回の目的はハニートラップ。
ということはつまり、僕が伴野の心をいかに掌握するかが鍵となる。
「伴野茂は女好きで有名だ。ホテル到着時までに、伴野茂本人が望に詰め寄るくらいには仲良くなってもらう。」
「要するに、あのニキビ面の男を僕が誘惑しないといけないってこと?」
「そうだ。念の為、女物の下着は身につけているな?」
「うんそりゃまあ…ってオイ!なんだ念の為って!なんの念があるんだよ!やめて!」
「万が一、そーゆー事になっても、それはまあミッション失敗ということで…。」
「そこはなんとかバックアップしてくれよ!そーゆー事ってなに!?貞操が危なくなるってこと!?」
「……あの男なら…最悪…ありえる。」
「そこは可能性を消してくれよ!なんで少し不安を残すのさ!」
「まあとにかくだ。望。お前の『男難の相』の力が試される時が来たってわけだ。よかったな。」
「良くないよ!何か異能力持ちみたいな扱い方だけど、ただ単に変な男に好かれるだけだからね!?」
「……条件は満たしている。」
「ちくしょーーーーー!」
「安心しろ望。半分は冗談だ。」
「半分は本気なんだね…篤志…。」
このミッション、本気でやらないと…僕がお婿に行けなくなっちゃうわけだね。
仕方ない。死んでも遂行する覚悟だ。
「そして、俺と教授は遠距離でお前に指示を出す。こちらは御剣咲夜たちからの連絡を受けなければならないからな。後ろからこっそりつけていくから意識はしないようにな。」
「了解したよ。」
「そして
「うん。私は何をすればいい?」
「あんたは望のバックアップをしてほしいんだ。この中じゃ一番、伴野のことを知っているはずだからな。」
「バックアップ?例えば…?」
「あんたも理解しているかもしれないが、望は基本的にはアホだ。ましてや、伴野相手じゃ『柊木望』としての意志が先行して、最悪作戦が失敗するかもしれない。」
失礼な!誰がアホだ全く!
少し抜けてるところがあるだけでしょうが!
「柊木君のバックアップ…。私にできるかな…?」
「わかってないな。『アンタ』にしかできないんだよ。」
「私…しか?」
「今のこの馬鹿の原動力は、間違いなくアンタだ。『白沢奏』という人間のため、こいつは停学にもなった。でも、こいつは多分後悔なんてしていない。というか、そんな状況でも自分のことより、アンタのことを気にしてる。」
篤志が妙に真剣な顔で、僕のほうに目を向けてくる。
なんだよ、妙に真剣に見てくるじゃないか。
久々に見たな。こいつのこんな顔。
うっすらとだけど、昔にも似たようなこいつの顔を見たような気がする。
「うん…。それは凄く分かってる。」
「ただ、その望がもし暴走しそうになったら、抑止力になれるのもアンタだ。望がボロを出しそうになった時、それがアンタの出番だ。頼んだぜ?」
「わ…わかった…。やってみるね。」
「いい返事だ。」
奏先輩は深く頷くと、何かを決心したように、胸の前で強く拳を握った。
「よし、じゃああとは他のメンツだが—————」
「あ、あの…!」
予定を言いかけた篤志を遮ったのは、奏先輩の声。
彼女の眼は、皆を一周して、覚悟を決めたように閉じられた。
「わ…私、皆に言わなきゃいけないことがあって…。」
「言わなきゃいけないこと?」
僕を含めた皆が、顔を合わせる。なんだろう?
「この度は…私が発端で皆に迷惑をかけてしまって…。本当にごめんなさい!」
突然、奏先輩が深く頭を下げる。
深く、深く。小さな身体が転んでしまいそうな程に、頭を下げていた。
「見ず知らずだった私の為に、色んなことをして支えてくれた柊木くん。本当は関係ないのに、全く知らない他人だったのに心配してくれたみんな。年上なのに、私…。情けなくて…。」
そうか。
これを言いたくて、先輩はあんな真剣な顔をしてたのか。
僕も、言わなきゃなと思ってたんだ。
「僕も…ごめんなさい!!!勝手な行動で、皆を巻き込んでしまって!!!」
皆に対して、僕も頭を下げる。
正直、僕は本当に恵まれている。
僕のことを心配してくれている人が、こんなにいるとは思わなかった。
ここまで、彼らの協力なしでは伴野の思うがままだっただろう。
僕の突発的な行動で、奏先輩や学校のみんな、バイト先にまで迷惑をかけた。
本当に、みんなには頭が上がらない。
「学年なんて関係ないと思いますよ。奏先輩。柊木も、気にすることないわ。」
優しい声色が、耳に入る。
そう言ったのは、
「二人共、頭を上げてくれよ。そんな真面目にやられたらこっちが困っちまう。」
篤志は焦ったように、僕の肩をポンポンと叩いて言った。
かつてないほどに優しい声だった。
「ノゾムに振り回されるなんて慣れてるからのう…。」
「……望は元から、かなり我が道行っちゃってるからな…。」
「みんな…。」
『いい友達をもった。』という感情は、僕が随分昔に感じた感情だ。
何があったか、物覚えの悪い僕にはボンヤリとしか思い出せないが。
僕達が集まるようになった『あの日』を、僕はなんとなく思い出していた。
「奏先輩は立派ですよ。バイト先でもしっかりと働いて、私や柊木のお手本となろうとして。」
相川さんは、奏先輩にゆっくりと近づく。
「そ…そんなことないよ!私はただ…。」
先輩は相川さんと上手く目を合わせられず、とても申し訳なさそうに俯いた。
「私、今回の件のこと、教授や財団からちょくちょく聞いていたんです。女子の間でも噂になってましたし。多分これ、奏先輩の事なんだろうなって。」
「うん…。」
「でも私、動けませんでした。学校での奏先輩も、バイトでの奏先輩も、私は知っていたのに。奏先輩の踏み入っては行けないところに、自分が入ってしまいそうで。」
「そりゃそうだよ…。私だって怖い。自分でも、周りに距離を置いて、他人を避けて生きてきたわけだし…。」
「正直、私は奏先輩の力になるチャンスはいくらでもあったんだと思います。『裏も表も』知っていたのに、私は怖くなって関わらないようにしていたんです。情けないのは…私の方です。」
「そんなことないよ…!バイト先で、ひめちゃんは何度も話聞こうとしてくれてたの、私知ってるから…。上手く隠そうとして…逃げてた私がいけないんだよ…。」
「先輩。それでも、柊木は。」
相川さんは、強く、奏先輩を見つめて言った。
「柊木望は、先輩を変えました。」
僕の名前が出ている。
あえて、その2人の会話に。僕は入ろうとはしなかった。
なんというか、少し恥ずかしかったから。
でも聞き耳くらいは許して欲しい。僕にだって、そのくらいの権利はあるはずだ。
すると…
「お…おい望!こっちだ!こっちこい!」
「そそそ…そうじゃ!ノゾム!これ調整終わったのじゃ!耳に!ほれ!耳に!」
「な…何するんだ二人とも!先輩と相川さんの会話が聞こえないじゃないか!」
「おまえ馬鹿か!!いや、馬鹿なんだろうけど!こーゆーのは本来、当事者は見ないもんなんだよ!ほらこっちだ!連れてけ!財団!」
「……了解。ほら堪忍しろ!お袋さん泣いてるぞ!」
「僕の母親はアメリカで元気にやってるよ!というかなんで連行されてんの僕!?」
「……いいから!作戦を確認したら玄関で待機だ!分かったな…囚人?」
「僕の罪状はなんなんだよ!!!」
「「「(……)鈍感罪だな(じゃな)」」」
「それは篤志もでしょうがああああああ!」
謎のコートを被せられ、玄関へと運ばれていく『
あー確かに。
これだけ聞くと事件性すっごく高いねこれ。
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