・《婚約解消の作戦ですか!?》- 3 -


「さて、役者は揃った。作戦会議を始めるぞ。」


学校の化学準備室。

放課後は教授が所属する『科学研究部』の貸し切り状態のこの部屋に、僕たちは集まっていた。


「停学の身としては、ここまで来るのも一苦労だったよ…。」


「仕方ないさ。もともとお前がやらかしたことだしな。望のその件に関してはグッジョブだったが。」


「確かにあの時はスッキリもしたし、後悔もしてないけどね。」


「……しかし高校一年で停学のレッテルは痛い…。」


財団が俯きながら、僕の胸に刺さることを言う。


「確かに、それだけ聞くと飛んだ不良じゃからのう。」


「だからこその、この作戦だ。」


篤志は椅子から立ち上がると、ホワイトボードを強く叩いた。


そこには


『柊木望の、ドキドキ♡ハニトラ大作戦!春の陣!』


と、でかでかと書かれていた。


いや…うん。分かってたよ?分かってたんだけどさ…。


「ねえ篤志、もう少し名前は何とかならなかったの!?企画モノのポルノビデオみたいになってるよ!?」


「名前はこの際どうでもいい!この作戦こそ『望本人』が解決できる最高の手段だ!」


「僕本人ねえ…。」


なぜか、身内では女装に無駄に定評のある僕だが、流石にバレてしまうのでは?という不安もある。そこらへんはどうなのだろう。


「大丈夫だ望。お前には俺らのバックアップが付いている。とにかく、安心して胸を張っていけ。」


「……パッドの胸を張っていけ…!」


「お前らこの野郎。今に見てろよ…。」


下唇を噛みながら、僕は彼らを睨みつける。


「で、僕は何をすればいいのさ?まだ全容が見えてないんだけど…。」


「この作戦の通り、内容はいたってシンプルだ。女装をした望が伴野の心を惹きつけて全力で落としに行く。そして、その光景を御剣さんの親に見せれば…。」


「伴野もただでは済まない…か。」


「その通り。」


「でも篤志、そこまでうまくいくとは思えないんだけど…。」


一抹の不安が頭をよぎる。

それもそうだ、この計画には、かなり無理がある気がする。


「大丈夫だ。こちらも、全力でバックアップする。メイクは相川。オペレーターには俺と財団が付く予定だ。安心しろ。」


「全然安心できないんだけど…。というかオペレーター?何それ?」


すると、教授が白衣のポケットからゴソゴソと、何やら小さなゴムの塊を取り出した。


「これを耳につけるのじゃ望。これはワシが作った超高性能トランシーバー『キコエルン』じゃ!」


言われた通り耳に『キコエルン』をつけると、確かに凄い。周りの音もはっきり聞こえるし、通信の音質も綺麗だ!


「望にはこれをつけて任務に当たってもらう。逐一こちらから支持を出すので聞き逃さないようにしろよ。」


「なんだか潜入捜査員みたいで、むしろ楽しくなってきたよ!」


もう最早、ここまでくれば気合の問題である。

これはもう、奏先輩のためとか、誰かのためじゃない。


僕自身の鬱憤を晴らすために。


全力で伴野を『落としてやる』っ!!!!


「覚悟はいいか?望。」


篤志はどうやら分かっているみたいだ。


「出来てるよ。」


「いい返事だ。」


僕ら二人がニンマリと笑う。

お互いに分かっているんだ。


僕らは『バカみたいなことにだけ全力になれる』ってことが。


「では各自、作戦の日に備えておけ!決戦は…。」


みんなの目線が僕に集まる。

元はと言えば僕が引き起こした問題だ。


「明後日、日曜日だ!以上!解散!」


覚悟なんて、随分前に出来ていた。


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