泰磨学園 只今星組待機中
石狩晴海
殺人事件と時間理論
いつもと変わらない昼休みだと思っていた。
しかし安寧を蹴っ飛ばすのものは唐突にやってくる。
「大変だ。
「な、なんだってぇーー!!」
教室で仲間たちと弁当を食べていた
咀嚼途中の飯粒が飛び散る。
「きたねえだろうがっ!」
「うわっ、さいてー!!」
一緒に机を囲んでいた
「オレが殺されたのなら、今ここで飯を食っているオレはゴースト!?
ニューリーダーの亡霊!」
薄く透け始めた朋也に茂樹が突っ込む。
「とっとと除霊されてしまえ」
「ひとまずロザリオをかざしてみましょう」
真理亜が懐から十字架を出す。
「ギャースッ!!」
聖なる輝きに朋也がドロドロと溶けて崩れ落ちる。
十兵衛が叫ぶ。
「ロウソクみたいな朋也はどうでもいい。
問題は犯人として
仲間内で一番体格の良い芳樹が立ち上がる。
「それは一大事」
真理亜も続く。
「クラス担任の葉月先生にトモを殺す理由なんてないでしょ」
「い、いやぁ……。だって葉月先生はなぁ」
「わりと、その……。あの……、なんというか……」
十兵衛と芳樹が言いよどみながら明後日の方角を見る。
床で謎の凝固物となった朋也は腕を一本生やすと、ファスナーを開けて中から復活する。
「オレが殺された場所はどこだ?」
「生活指導室だ」
「よし、弁当を掻き込んで行くぞ」
着席した朋也に真理亜が尋ねる。
「食事の中断はしないのね」
「お残しは良くない」
「それはそうだけどさぁ」
「ほら、お前もさっさと食え。
生活指導室はちょっと遠いから、急がないと昼休みが終わっちまう」
「はいはい。付き合えばいいんでしょ」
そう言って、真理亜は手作りのツナサンドを購買物の紙パックいちごミルクで流し込んだ。
§§§
§§§
昼食を終え、生活指導室前に到着した朋也たちは知覚判定を振る。
判定に成功した朋也がみんなを制する。
「ちょっとまて。先に中の様子をうかがおう」
そう言って幸太郎は、身嗜み用の折りたたみ式ヘアーブラシ&ミニミラーを取り出す。
扉に身体を寄せて、ミニミラーを鍵穴に近づけ覗き込む。
真理亜が首を傾げる。
「トモはなにをしているの?」
「シーフの基本だよ。鍵穴から中を覗くんだ」
十兵衛が解説する。
「鏡はなんのため?」
「意地悪なゲームマスターだと鍵穴から毒針が飛び出すかもしれない。
だから鏡を使って間接的に見るんだ」
真理亜の首が更に傾く。
「鍵穴って内側に繋がってるものなの?」
「昔はその手のタイプもあったけど、最近はまず見かけないね」
「それじゃあトモは、今なにをしているの?」
振り返った朋也が、グッとサムズアップ。
「意味がないのに、やっていたのね」
「いいから中に入ろう」
芳樹が扉を開ける。
生活指導室の中には二人の人間がいた。
一人は二年B組のクラス担任
何故かパイプ椅子にロープで縛られている。
スーツの上からでも分かる爆乳がロープで更に強調される恰好だ。
もう一人は謎の光の具合でよく人相が解らない。
影法師のような人物だった。
「本当はこんなことしたくないのですよ」
影の人物は、机の上にある煮立った鍋にお玉を入れる。
底からとろとろに溶けた輪切り大根を掘り起こし取皿に移す。
今度は竹串を持つと、ゆっくりと大根に突き立てた。
「ほぉうら。串がこんなにも簡単に刺さるほどの煮込み大根ですよ。
おいしそうですねぇ。ふっふっふっ……」
「いやぁ、そんな! やめてください!」
葉月先生が恐怖に涙しながら、首を振り拒絶を表す。
朋也と芳樹の冷静な現状分析。
「定番のオデンネタか」
「あれ最初はリアクション芸じゃなくて、本当に熱いオデンを食べていただけらしいな」
「毎週火傷で唇の皮がめくれるってヤツだろ。恐れ入るぜ」
「時代劇のパロドラマなのに、臆面もなく熱々オデンが出て来たのは正直笑った」
暢気な二人を真理亜が蹴っ飛ばす。
「いいから葉月先生を助けるわよ」
影法師が幸太郎たちに振り向く。
「おや。もしや匂いが外にもれていましたかね」
謎の人物の正体は姫小路
葉月先生の旦那さんだった。
「どうして教頭が葉月先生にこんなことを……!」
「ごめんなさい。わたしが頼んだの」
パイプ椅子から葉月先生が立ち上がる。
後ろ手にロープを持って、縛れられている振りをしていたのだった。
「だって、最近相手をしてくれなくて不安だったの……!」
「ばかだなあ。わたしは葉月を悲しませることなんてしないよ。
むしろ寂しい思いをさせていたのを謝る立場だ。
ごめんね。葉月」
「アナタ……」
ひしっと抱き合う夫婦。
美しき愛のカタチ。
十兵衛が前にでる。
「それよりも、みんな。
床を見てよ」
科学準備室の床には、朋也が手に熟女人妻系のエロ本をしっかりと握って死んでいた。
真理亜が挙手する。
「はい。教頭先生、質問です」
「なんでしょうか。亜郷さん」
「先生たちは、床にこんなのがあるのにいちゃついていたんですか?」
「実によい質問です。
ですが、これは実在しないのですよ」
教頭がはっきりと明言する。
これ扱いに抗議する朋也は十兵衛と芳樹が抑えている。
「なにしろこれは、昨日の星宮くんの残像ですから」
驚きの発言だった。
教頭の言葉を裏付けるように、床の朋也がゆっくりと透けて消えていった。
「ひとまず星宮くんには名誉の二階級特進、四年B組として卒業してもらいましょう」
「学年を階級にしないでください。
さすがのオレも留年はしたくない」
親友二人の拘束からゲル状化して抜け出した幸太郎が、教頭にすがりつく。
「冗談ですよ。
ひとまず昼休みが終わってしまいますから、みなさんは教室に戻りなさい。
詳しい解説が聞きたいのなら、放課後にお話しますから」
「はーい」
教頭の指示にしたがって、全員素直に教室に戻った。
だが、一人だけ納得していない者がいた。
真理亜だ。
「そもそもどうしてジューベイは葉月先生が犯人だと思ったの?」
「もちろん、あの現場を見て盛大に勘違いしたからさっ!」
キラリと歯を光らせる友人へ、朋也があるものを投げ渡す。
「さっきの煮込み大根、えいっ」
「あっつ、あつ、あっちぃ!!」
「食べ物で遊ぶんじゃない!」
芳樹の
§§§
§§§
ほうかごぉー。
場所を校舎四階の科学準備室に移して、
「さて、放課後の特別講義を始めます。
主題は
「やはりここにいるオレは幽霊なのだろうか?」
「塩化ナトリウムに触れるとどうなる?」
決め顔の朋也に対して、
「ぐわぁーー!」
ナメクジの如く縮んでゆく朋也の横に、教頭がホワイトボードを持ってきた。
「解明すべきは、昨日の星宮くんが今日まで残っていたことですね。
これは時間軸移動の証明をする必要があります」
マジックペンできゅっきゅとポップな感じで生活指導室の見取り図を描く。
「より正確には、過去に移動するのではなく”そこにあり続けた”とみるべきですね」
生活指導室の床に描かれた人型に”残像”と注釈を書く。
ここで
「本人が生きているんだから、直接聞けばいいんじゃないですか?」
「もっともです。
では星宮くん。昨日の状況を教えてくれますか」
縮んで10cmSDサイズになった朋也が机の上に立って敬礼する。
「了解です。
ほら、
芳樹の顔が苦悶に歪む。
「唐突にぶっ飛んだ方向に話が進むな」
「それが昨日完成して、論文をオレに見せてくれたんだ。
だから、さっそくと実物を作成することにした」
「教頭先生、話がグラスホッパーするのは許容範囲ですか?」
「とりあえず最後まで聞いてみましょう」
「ちょうどよく職員室の押収物置き場に熟女人妻系エロ本があったから、タイムマシンを組み込んでみたんだ。
思った通りばっちりハマったぜ」
十兵衛は天を仰ぐ。
「エロ本型タイムマシンとか、脳味噌のどこを焼き焦がせば考えつくんだ……」
「タイムマシンの形として懐中時計が考え出されるんだぜ。
熟女人妻系エロ本型ぐらいで驚くなよ」
呆れているんだよ、と十兵衛は言葉を飲み込み。
前例はイメージが合致するだろ、と芳樹は口の中に留めた。
「そして試験運転した結果、昨日の生活指導室で死んだ」
芳樹と十兵衛がおもわず突っ込む。
「おいおい」
「なんじゃい、そりゃ」
「大丈夫だ。安心しろ。
こんなこともあろうかと、熟女人妻系エロ本型タイムマシンに心臓をコピーしておいたから、その場で蘇生することができた。
復活した後に明確な時間軸移動や、世界線、平行世界とかの変化は観測できなかった。
タイムマシンの作成は失敗したんだ。
押収物の熟女人妻系エロ本は、帰る前にタイムマシンを外して葉月先生に返したよ。
以上、状況説明終わり」
喋り終わったSD朋也は、机横のシンクまでとことこと歩いて蛇口をひねる。
水をごくごくと大量に飲んで、むくむくと元のサイズに戻っていった。
真理亜が朋也に怒りを向ける。
「全然、まったくもって、説明になってない!
しかもタイムマシンの実験で、本当に一回死んでいるんじゃない」
「 人間は 誰しも 時の旅人 」
「キャッチコピーみたいに言っても誤魔化されないわよ!」
「まあまあ、亜郷さん。少し落ち着きましょう」
教頭が真理亜を諌める。
「今回の事件で重要なのは、星宮くんが死んでしまったタイミングで、残像が発生したことです。
つまり”死んだ”という情報だけが、未来に伝えられたということですね」
ホワイトボードに付け足されるDEADの文字。
朋也も頷く。
「あの熟女人妻系エロ本型タイムマシンは、未来へ情報を送るだけの未完成品だったんだ。
まだまだ改良の余地がある」
姫小路教頭がきゅーと、長い一本線をホワイトボードに描いた。
「改良しても過去へはいけません」
「と、申されますと?」
「実態として時間遡行は出来ない。不可能なのです。
時間概念のパラダイムシフトは容易で、時間が連続していないことは簡単に証明できます。
この世界にタイムマシンは存在しません」
「おおう。折角の熟女人妻系エロ本型タイムマシンが否定されちまった。
しかして、どのように存在できなのかご教授願います」
朋也が頭を下げる。
「実践した方がわかりやすいでしょう。
星宮くん。そこの窓から超々々猛スピードで飛んでいって、地球を一周して廊下側から入ってみてください」
「了解です。
じゅわっ!」
四階の窓から躊躇なく飛び出す朋也。
キーンと音がしたと思えば、ドアを開いて戻ってきた。
「地球を一周してきました」
「では次に、”物理の限界を超えた速度”で移動して、ここを出発する前に到着してみてください」
「こうですか?」
二人目の朋也がドアを開いて入ってきた。
先にいた古い朋也は、新しい朋也とハイタッチして窓から飛び出していった。
残された三人が頭を抱える。
代表して芳樹が言った。
「これ、朋也の分裂芸じゃないんですか?」
「分裂しているように見えますが、簡単なタイムパラドックスです。
出発する前の自分に触れるわけですから。
新しい星宮くんに質問します。
あなたはここを飛び立つ時、古い星宮くんとハイタッチしましたか?」
「いんや。やってないっす。
ってか、古い自分がいませんでした」
「ですが、わたしたちの目の前で二人の星宮くんは触れ合いました。
時間的な矛盾が発生したわけです。
いわゆる”自分殺し””親殺し”の簡易版ですね」
教頭の説明に、十兵衛が頷く。
「タイムスリップして過去の自分や両親を殺したら、現在や未来の自分はどうなるのかってやつですか……」
「ここでのタイムマシンは”物理を超えた速度”になります。
物体が移動することと時間が経過することは同義です。
どれだけ加速してもエネルギーが変換されるだけで、過去には進めないですからね」
ホワイトボードに引いた線に矢印を書き足して”時間”とする。
時間の古い方に”到着した星宮くん”、矢印の先に”出発する星宮くん”。
二つの間に”パラドックス”&”ハイタッチ”と書く。
”出発する星宮くん”から反転する線を引っ張って”到着した星宮くん”を指す矢印にする。
最後の線には”タイムマシン”&”物理を超えた速度”と記される。
真理亜が朋也をジロジロと見据える。
「ここに居るトモは、物理法則に違反して時間遡行したことになるのよね」
「ふふふ、驚け
十兵衛と芳樹がこそこそと囁き合う。
「こいつにタイムマシンは必要だったのか?」
「深く考えないほうがいいぞ」
「あくまで星宮くんのような特殊な例外でないかぎりは、物理上過去への逆行が不可能なことはわかりましたか?」
「トモが変態なのはよくわかりました」
真理亜の答えによろしいと教頭が首肯する。
「ですが、未来への跳躍は物理法則の範疇で擬似的に可能です。
とても速く移動すればいいのですから」
「相対性理論ですね。
光の速度に近くなるほど時間の進みが遅くなる、でしたっけ?」
教頭が今一度、真理亜に頷き返す。
「置いてけぼりにされたとみなすのもありです。
俗に浦島太郎の物語になぞらえて、ウラシマ効果とも言います。
光速に近しい速度でのくわしい相関性は、アインシュタイン博士に任せるとしましょう」
ホワイトボードの時間線にショートカットするような矢印を描いて”光速に近づく速度”と注釈を入れる。
「つまり未来への加速は出来ても、過去へのマイナス時速は出せないことになります。
言葉尻に捕らわれて誤解しがちですが。
未来と過去は、現在からみて別々の法則で繋がっているのです。
ここまでの理論を踏まえて、星宮くん殺人事件を振り返ってみましょう」
姫小路教頭が生活指導室の図面にある人型を指す。
「昨日、星宮くんはタイムマシンの試験運転中に死んでしまい生活指導室で倒れました。
そして死んだ自分を残したまま蘇生し下校、本日も元気に登校してきました」
「頑強なのが取り得です!」
無駄に気張る朋也を、真理亜が睨めつける。
「普通の人間は、まず死んだら生き返らないわよ」
「つまり真相はこうです。
昨日の星宮くんは、未完成のタイムマシンにより死んだ状態で光速に親しい速度を維持していた。
そして今日のお昼まで残っていた。
過去からタイムマシンでやってきた”残像”だったのです」
十兵衛が顎に手を当て考える。
「一歩も動かない死体の状態で光速を出すって、可能なのか?」
「死体でも光速に等しい運動量を確保すればいいんだから、本当に身体が移動している必要はない……、はず……」
芳樹が絞り出すように推論を出す。
真理亜も呆れ果てていた。
「頭が痛くなる話ねえ……」
真理亜は、飛び出していった窓から室内をチラチラと覗き見ているもう一人の朋也を無視した。
「殺人事件が解決したところで、次に現代と過去がどうやって繋がっているかを考えていきましょう。
これが解れ明かされれば、どうしてタイムマシンを作っても過去へ行くことが出来ないのか理解できます」
「端的に言って、これが”過去”です」
「はい。教頭先生。
それだけじゃ、さっぱりわかりません。
どうして90度の直線が”過去”なんですか?」
「では順番に解説していきましょう。
まず過去と未来が同じ繋がり方だった場合を確かめます」
姫小路教頭が机の引き出しから大振りのサイコロをいくつか取り出す。
「今から振るサイコロで1の目が出る確率は1/6になります」
言ってサイコロを一つ転がすと、2の目が出た。
教頭は出た目のままホワイトボードの下向き直線の横に貼り付けた。
どうやらサイコロにはマグネットが入っているようだ。
「ここで質問です。
つい先程振ったサイコロの目が1になる確率はいくつでしょう?」
「確率は0なんじゃないんですか。結果が2だと解っているんだから」
「では、もう一度サイコロが振られる場合に2が出る確率はどうなりますか?」
二人の間に
「新しく振られるなら1/6じゃないっすか」
「待ってください。教頭先生。
”過去”って、そういうことですか……?」
「亜郷さんは理解されたようですね」
身を乗り出す朋也は好奇心に瞳が輝いている。
「未来に確率があるなら、”過去にも確率が存在する”んだ。
すっげぇー。これ考えた人、天才かよ」
十兵衛と茂樹が顔を見合わせる。
「おい。朋也が俺達より先に理解したぞ。どういうことだ」
「真理亜はともかく、変態な朋也に負けるのは屈辱極まりない」
姫小路教頭が横線の過去に数字の”7”を書く。
「わかりやすく確率の幅を広げて説明しましょう。
私が昨日振った二つのサイコロの結果は合計7でした。
二つのサイコロが合計7になる組み合わせは、全36通り中の6通りです」
ホワイトボードの現在の位置から”7”の場所まで6本の矢印が書かれ、それぞれに1&6、2&5、3&4、4&3、5&2、6&1が付け足される。
真理亜が納得の表情をした。
「やっぱり……!
今この時点の私たちからすれば、昨日先生が振ったサイコロには6つの可能性が存在することになるのね」
それを見て朋也が明るく笑う。
「オレたちが”昨日の7”に戻る道筋が6つに分岐しているとか、面白うな」
教頭先生の講義は続く。
「未来と過去が現在を起点に繋がっているのなら、過去にも確率が必要になってしまいます。
ならば、結論は簡単ですね。
”現在が記録する過去”と”過去の可能性”は別のもの
なのです。
以上が、未来と現在と過去が、それぞれ別のくっつき方をしている証左になります」
姫小路教頭は、縦線の横に”7=4&3”と書いた。
混乱する十兵衛。
「タイムマシンが過去に過去に遡れないのは、可能性があるからですか?」
「いいえ、逆です。
科学が進めば、遅延波などを利用して可能性がある過去にはたどり着けるかもしれません。
ですが、そこまでです」
姫小路教頭が横線の”7”を指す。
「遡行した先が過去の記録と合致しても、そこは現在が持つ過去の記録によく似た場所で終わってしまいます。
現在に遡行者の記録がなければ、パラドクスが発生してしまいますからね。
故に時間遡行は、どうやっても可能性の範疇を抜け出せないのですよ。
これ以上は世界線や平行世界へと議題を移すので、今回は省略します。
あくまで確定した過去の改変が行えないことを証明する、タイムマシンを作っても過去に行けないのが主題でしたからね」
芳樹が朋也を見る。
「そうすると、地球を逆転してきたお前は何者なのかって話になるよな」
「決まっているだろ。可能性だよ。
オレたちは過去も未来も可能性でおっぱいなんだよ」
朋也が手の平を上にして何かを持ち上げる仕草をする。
真理亜は半眼で時間遡行者を睨む。
「”可能性でいっぱい”でしょ。
わざと下品な言い回しにしないの」
§§§
§§§
特別講義してくださった
昇降口へと歩いていると、二年B組のクラス担任の
「あら、教頭先生のお話は終わったの?」
「はい。とても興味深い内容の講義でした」
残る男子三名はパンパンと二拍一礼。
参拝対象は葉月先生のスーパームーンブーブ。
脅威のメートル超えまんまるLカップ。
男ならば拝まずにはいられない。
学園男子生徒たちでの通称は、お月見。
「ありがたや、ありがたや」
「今晩もご飯が美味しく食べられます」
「明日への生きる活力をありがとうございます」
真理亜は礼拝する三人から無言で距離を取る。
そして一つ思い出して、担任に質問した。
「教頭先生がはっきりと過去改変ができないことを説明出来るのに、どうして葉月先生はタイムマシンを作ろうとしたのですか?」
「だって、悔しかったんですもの。
過去に戻って同い年になろうって夢の話をしたのに、あの人ったら真剣に時間遡行はできないとか言い出して……。
そうなったら全力でやりたくなるじゃない」
男子三名が顔を突き合わせて輪形になる。
「教頭先生より葉月先生の方が年上なんだよなぁ……」
「普通は逆にしか見えないけどね」
「年齢不詳の美人姉さん女房とか羨まし過ぎる」
二十代前半にも見える女教諭が、目的の生徒を見つける。
「そうですそうです。
押収物を勝手にもちだしてちゃダメですよ。
早く返しなさい」
真理亜が
「まさか時間を捻じ曲げてまだタイムマシンを持っているとか、パラドクスを発生させまくっているじゃないでしょうね」
「大丈夫。
ちゃんとタイムマシンは解体したし、押収物の熟女人妻系エロ本も返したさ。
ちゃんとタイムマシンを使って、明日で返した」
「それを ちゃんとした とは言わんわー!」
壁を全力で蹴り、反転しながら片足を伸ばす。
二人の
「ぢごわっ!」
朋也の謎悲鳴で、この話は終了する。
えんど
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