序章 審議中
ただ、天人が人間を下等な生物と見下したあの時から、人間が天人を
天と地では幾度も
しかし、
人間は天人を
そして、その傲慢さを人間は許せず、天人はその傲慢さ
しかし、いつしか人間は独自に神を持った。人間は願った。雨でも
願いの
いつしか天人は、その長い生の中で人間との
かくいう私もその一人だ。戦場に参加していたのは、もう優に百年以上前の話だ。天人は
見目は、一度通り過ぎた段階であれば好きな時期を選べるので、一番
のんびり天上の街を歩く。今日もいい風が
朝焼け色の
ああ、長かった。ようやく手に入れた。ずっと、もう十年も、節約して節制して、
「ルタ、喜んでくれるかなぁ」
ちょっと表情に
ルタは私の
戦場を
黒髪に赤い瞳が印象的な大層美しい少年はルタと名乗り、
どうやら幼体の姿を取っているわけではなく、
しかし、ルタはとても
とてもどころではなく、
何故か本能的に知っているはずの羽の仕舞い方から飛び方などという、世間知らずの雲入りお
その頃にはすっかり情が移ってしまった弟子の将来を考えると、これではいけない。もっとちゃんとした場所で、ちゃんとした人に弟子入りさせるべきだ。私で
その日から、彼の
ルタ程の実力を持った者を教え導ける存在となると、上位天人だけだ。上位天人は長い時を生きている者ばかりで、少し性格に難がある事が多い。そして、とても自由なのだ。その中で、
探した。それはもう探した。
条件を
だから、ルタとは今日でお別れだ。
それでもやっぱり寂しいなと
これは、表情に乏しいルタが、初めて目を
私は、ルタへの
おかげで貯金はすっからかんだけど、まあなんとかなるだろう。私の
小さな庭と小さな家。両親が
「ルタ、ただいまー。ごめんね、
「あれ?」
テーブルが
しかし、私の
「ル、タ……?」
狭い家だった。
狭いはずの家の中に、数万を
そして、私の胸を
「ル、タ」
ごぼりと口から血が
剣を伝って流れ落ちる血は、
「
いつの間にか後ろにいた男が私の身体を
「王……?」
この人間は酷く不思議な事を言う。天人である彼が人間の王であるはずがない。そもそも、人間界の王はその血を絶やしたと聞いた。だって、私が王と
何故人間が
「我らが神がお与えくださったのだ。王を天人として生まれ変わらせ、天と地を繫ぐ道を!」
もう、男の言葉が理解できない。ルタ。私の、ルタ。一人ぼっちだった、私の弟子。
ルタは血が滴り落ちる剣をだらりと身体の横に下げたまま、私を見下ろしている。
「……何故、両親を殺したのですか」
両親、両親。言葉が、単語が、ぐるぐる回る。男の言葉はもう理解できなかったけれど、ルタの言葉だけは必死に拾う。両親、両親。にこりと
「私の、両親、は」
「お前のではない! 先代国王陛下と王妃様だ!」
男の声が、うるさい。
「あなた、たち、が、
天界にはない草花が好きでよく地上に降りていた母。危ないからと私は連れていってもらえなかったけれど、父はいつも一緒にいて。お父さんとお母さんは私を置いてデートしてるんだと
「だか、ら、ごめんね、ルタ……会わせて、あげられ、ないの」
ごめんね、ルタ。私、
「ルタ……ルタ……まってて……ちゃんと、
羽の
「ルタ」
「ルタ」
料理も
「ルタ」
我が
「ルタ」
ルタ
ルタ
ルタ
一人ぼっちだった、私の
「しあわせに、なって」
一人ぼっちだった私の、ルタ。
「そうして、人間王は天界を
めでたし、めでたし。
「王様ってすごいんだなぁ!」
「おれ、大きくなったら王さまになるんだ!」
きゃあきゃあと子ども特有の
「ねえ、ねえ、いんちょーせんせ! おうさまは、そのあとどうしたの?」
「王様はね、最後の王族であり、最後の天人であるが
興奮して飛び跳ねた
「え! 王さま生きているの!?」
「ええ、千年前からずっとご存命ですよ。
王様
「ぞんなにょあんまりだ、ぞんなにょあんまりだぁ!」
「まあまあ。アセビ、どうしたの? あらあら、そんなに泣くと、また
優しい院長先生のふくよかな身体に
だって、あんまりだ。そんなのあんまりじゃないか。一人ぼっちのルタが一人じゃなくなればいいと思っていたのに、千年も一人ぼっちだなんてあんまりじゃないか。
「あんまりだぁ!」
ぎゃあぎゃあ泣き
養護院の
彼に殺されたのは仕方がない。私が彼の両親を殺したのだから。その上、人としての彼を捨てさせてしまったのも私だ。私が
私の
私は、小さく丸い手を握り
「わたし、おおきくなったら、おうさまのいるちんでんではたらく! それで、おうさまがさびしきゅないように、おともらちいっぱいつくるおてつだいするの!」
私が人間として生まれて三年。人生の指針を決めて十秒。
養護院を卒業して神殿で働くまで、後十二年。
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