診断メーカー系

翠玉

空っぽのカップ

「ごめんね」

 深夜のファミレス。僕たちと店員だけ空間だ。かつては温かかったコーヒーも、今ではすっかり冷め切ってしまっている。

「本当に、ごめんね」

 ただただ、重苦しい表情でうつむく彼女の頭には、包帯が生々しく巻かれている。

 はじめは嘘だと思った。悪い冗談だと笑って受け入れようとしなかった。意味なんてないとわかってはいても、そうせずにはいれなかった。そんな僕の我が儘に、ここまで付き合ってもらった事を感謝しなければ。

「そっか」

 せめて最後くらいは彼女の記憶に綺麗なままで残って欲しいと思い、笑顔を作ろうとするが、僕の意思を無視するかのように口角は上がらない。

 こんな簡単な表情も作れないほどに、僕の中で彼女を失うことの悲しみが大きすぎるのだ。なら、せめて泣き出さないようギュっとズボンをつかむ。

 そんな僕の態度に、彼女は顔を手で覆い泣き出してしまう。薄ピンクの整った爪が綺麗だな、なんて、とんだ場違いなことを考えてみる。

「お願い、許して……」

 絞り出したような、掠れた声で赦しを請う。手を伝い、宝石のような涙が一粒また一粒と零れ落ちていく。

 初めてキスをした日の照れ笑いや、1年目の記念日で指輪を贈りあったあの日の記憶も、一緒に零れ落ちていく錯覚に陥る。

 そう思ってしまうと、彼女の涙が直視できなくなり思わず俯向く。

「うまくいかないね、色々」

 そう言って残ったコーヒーを一気に飲み込んだ。空になったカップがなんだか僕に見えてしまって、また目を逸らした。











 恋の記憶を失った翠玉の愛するひとは辛そうな顔で「お願い、ゆるして」、そう言った。あの日笑いあった記憶が脳裏に浮かび、耐える事が出来ず俯き「うまくいかないね、色々」と言うしかできなかった。

 #恋の記憶を失った

 https://shindanmaker.com/58269

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