第21話 カボチャは好きですか?

「今頃お兄様はリーゼお姉様と再会出来た頃かなぁ」

 全く、あの日から何一つ進展していないんだから。


 メルヴェール王国の誕生祭から戻った私はリーゼお姉様に手紙を出した。

 もちろん……としての私じゃなく、お姉様にご迷惑がかからないよう二重・三重に仲介させて手紙を送っている。ついでに言うと、手紙のやり取りを知らないのはクロードお兄様だけで、両親と一番上のフェリクスお兄様には既に伝えてある。当然クロードお兄様の初恋の相手だと言って。

 お母様なんて涙を流しながら喜んでたのよ、あの不器用なクロードにもやっと春が来たってね。


 そんな中お姉様から届いた手紙の中にお店のオープンの事が書かれていた。何でもお姉様がプロデュースしたブランドが有名になり、新しくお店をオープンする事になったんだとか。

 それを聞いた私は真っ先に駆けつけようとお母様に相談したところ、クロードお兄様が丁度その辺りの日程で使者として訪問する事になっていると分かり、フェリクスお兄様にお願いしたらあっさりと日程を調整してくれた。


 結局今回はお兄様一人で再会させたくて私は身を引いたのだけれど、今でもこっそり覗きに行きたい気持ちが抑えきれない。

 まぁ、後日お姉様のメイドでもあるティナさんから報告を受ける手配にはなっているが、手紙が届くまでには10日ぐらいはかかるのではないだろうか、何といっても身元がバレないよう彼方此方あちらこちらと回ってから届くようにしているのだから。


 それにしても、まさか私とエレンさんが連んで二人を合わせるように仕組んだとは、お姉様も考えていないだろう。

 うぅ、やっぱり二人が再会した時の姿が見れないのはもどかしなぁ。


***************


「ク、クロードさん?」

「あ、あぁ、久しぶりリーゼ」

「「……」」


 もしかして人違い? って思い名前を確認したが、どうやら間違いなく当人らしい。もじもじ

 おのれティナめ、あとでお仕置きじゃ!


 まずは落ち着け私、こんな時はどうするんだっけ? そういえば誰かが言ってた気がする、緊張した時は相手をカボチャだと思えと。

 カボチャ、カボチャ……そう目の前の人はカボチャ!


 チラリ。

 じゃなぁーーい! 誰よカボチャと思えと言ったのは、そもそもクロードさんをカボチャに例えるなんて出来ないわよ。だったこの人は私がす……


「リーゼ?」

「はい、好きですカボチャ」

「えっ?」

 きゃぁーーー、何言ってるのよ私は!


「あ、いえ、クロードさんはカボチャ料理はお好きかなぁって」

「カボチャ料理? うん好きだよ」

 よ、よし、上手くごまかせた。


「お久しぶりでございますクロード様。クロード様はカボチャ料理がお好きなんですか?」

 ちょっ、いきなり何割り込んでくるのよティナ……じゃなくて、この状況を何とかしなさいよ。

 ジロリと横から睨んでも、本人は気づかぬふりをしてそのまま話を続ける。


「そう言えばお嬢様はお料理も上手なんですよ、特にカボチャの煮付けは絶品で、以前私たち使用人にもその腕を振るってくださったんです。そうだ、今度是非お嬢様の手料理を食べに来てください。

 それじゃ私はお仕事がございますので、ごゆっくりしていってください」

 ブハッ、コラーーっ! 何勝手な事をサラッと言ってるのよ、私の手料理をクロードさんに振る舞うって、そもそもカボチャの煮付けどころか料理なんてした事全くないわよ。


「リ、リーゼは料理が得意なんだ」

「えっ、い、いえ、は、はい。そ、そうなんです……」

 って、違うでしょ! バカバカ、私のバカーーっ。


「も、もし良かったら、今度リーゼの料理を食べてみたいな……なんて……」ポリポリ

「! は、はい。是非!」

 ………………し、しまったぁーーー!! 私料理なんて出来ないわよ。

 前世でも精々コンビニ弁当を温めるだけ、頑張ってもカップ麺にお湯を注ぐぎらいしかやった事がない。そもそも煮付けってどうするんだっけ? 醤油に味醂、あとお塩だっけ? そうそう隠し味にお酒がいいと聞いた事がわるわ。日本酒がないからワインでいいわね、そもそも何故この世界に煮付けがあるのよ!


 はぁ、はぁ。

 まぁ、まだ時間があるから練習すればいいわ、イメージトレーニングも大体出来た事だし何とかなるわよね。取り敢えず今度クロードさんと会う切っ掛けが出来た事だし良しっとしよう……コホン、し、仕方ないわね、ティナが言っちゃったんだから主人である私が責任を取ってあげるわよ。


「こ、今度王都に来られる時は教えてくだいね。お、お弁当を作っておきますので」

「う、うん。ありがとう……あっ、でもどうやって連絡を……」

「ん? サーニャちゃんからお手紙をもらっていますよ? 私も何度かお出ししておりますし」

「えっ?」

 あれ? もしかしてご存知なかったのかなぁ? ご両親や一番上のお兄さんも私たちが文通しているのは知っていると書いてあったのに。


「それは本当?」

「はい、今日のオープンの事もお手紙で知らせていたので……それで来てくださったのではないのですか?」

「い、いや、僕はただサーニャにこの店でお土産を買ってこいと言われて……」

「サーニャちゃんが?」

 はっ! ジロリとティナの方を見れば慌てて顔を反らしてきた。これは二人が事前に仕組んでいたな、どうりで今日に限って私の支度を念入りにしていると思っていたのだ。てっきり店頭に立つ機会もあるだろうと思い深く考えていなかったが、朝からエステのフルコースと、髪の毛をいつも以上に丁寧に梳かしているなぁとは思っていたのだ。

 ちっ、私を罠に嵌めた事は許せないが、エステと私の支度は悔しいけど褒めてあげるわ。お仕置きは私がフルコーディネイトしてあげる胸キュン衣装を着る事で許してあげよう。


「それで、その、サーニャに何か買って帰らないといけないんだけれど……」


***************


 よくよく見れば、彼女が今着ている服は僕がたった今見ていた服と同じものだ。

 あぁ、想像通りこの服はリーゼによく似合うなぁ。


 それにしてもまさかサーニャとリーゼが手紙のやり取りをしているとは思ってもみなかった。流石に直接送るようなバカな真似はしていないだろうから、母上か兄上が絡んでいるのは目に見えているが、まぁこのぐらいは大目に見てもいいのかもしれない。

 僕に秘密にしていたのは頂けないが、お陰でリーゼの手料理を食べられる約束を取りつける事が出来た。僕頑張った。

 しかしカボチャの煮付けってなんだ? 思わず好きとは答えてしまったが、彼女が作るものだったら例え焦げていようが食べきる自信が僕にはある。


「サーニャちゃんにお土産ですか?」

「うん、僕じゃ何を買って帰ればいいのか分からなくて」

「そうですねぇ、サーニャちゃんだと背が低くて可愛いから……これなんてどうでしょう? 白のワンピースにベージュのオーバーベストとスカートが一体になった上着を羽織るですが、フリルが付いてよく似合うと思いますよ」

 リーゼが選んだのは、フリルやリボンがいっぱい付いた可愛いエプロンドレス。そういえばサーニャもよくこんな感じの服を好んで着ていたっけ?

 リーゼが今着ているように肩は出ていないが、夏場に相応しい肩までの袖に涼しげな生地、女性物では珍しく襟が付いているが、背中を向ければセーラー襟四角く大きなデザインになっており、首元にはベストと同じ色のリボンで飾るようにしてある。

 彼女の言葉を借りるならオーバーベストとスカートが一体になった物は、デザインを重視したための上着で、別に暑ければワンピースだけでも十分すぎるほど可愛いくなっている。


「サーニャの事よく見てくれてたんだ。あいつもこんな感じの服をよく着ているよ」

 僕一人じゃこの服にはたどり着けないや、適当に買って帰って呆れられるのが目に見えている。


「もちろん良く見てますよ、サーニャちゃんは私にとっても可愛い妹のようなもんですし」

 妹、か。そういえばやたらとリーゼに懐いていたっけ。


***************

 『お兄様がリーゼお姉様と結婚すれば、私はリーゼお姉様の妹になれるんですよ』

***************


 ブフッ。

 サーニャの事を思い出していたら余計なところまで思い出してしまった。リーゼと僕が結婚って、隣国同士の僕等じゃ色々問題が山澄だろうに。


「それじゃこれをもらえるかな?」

「わかりました、サイズはMにしておきますね、サーニャちゃんだと少し大きいかもしれませんが、背中の編み込みリボン紐で絞められますので問題ないと思いまいます。あとこの服だと刺繍の施された白のニーハイソックスが良く合いますので、こちらはプレゼントさせてもらいますね」

「あっ、でも悪いよ」

「いえいえ、これは私からサーニャちゃんへのプレゼントですので」

「ん〜、それじゃお言葉に甘えようかな」

「はい、それじゃ服を包んでまいりますね」

「よろしく」

 ふぅ、相変わらず彼女と話をしていると緊張してしまう。こんな事、他国の陛下や王女様に謁見した時でさえなかったと言うのに、一体僕はどうしてしまったのだろうか。だけど悪い気が全くしない、寧ろこのままずっと一緒にいたいとさえ……。


 そんな時だった。



「何ですのこのお店は! 私の言う事が聞けないですって!」

 突如店内に響き渡る女性の声。

「おい、店主を呼んでこい! 彼女は俺の婚約者だぞ!」

 そう言いいながら隣に並ぶ男性も同じように騒ぎ立てる。


 くっ……何故ここにいるんだ、ウィリアム王子。

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