雨のジャングル(4)


 ハルは瞼の裏がきらめいて目を開けた。 


 目の前に先の尖った葉が揺れていて、その先端に小さな羽虫が止まっている。


 遠くで近くで鳥の鳴き声が聞こえる。


 ねっとりとした空気が揺れると虫は乾いた羽を震わせどこかへ飛んで行った。


 身を起こそうと体を動かすと腹部に激痛が走った。


 そのままハルは仰向けに倒れ込む。


 高いところに切り取ったような青い空が顔をのぞかせていた。


 その端に輝く太陽が見えた。


 遠くで人の声が聞こえた。





 そこから先のことはあまり覚えていない。


 何人もの男たちにハルは担がれどこかへ運び込まれた。


 鋭い腹部の熱は体全体を火照らせ、頭は生ぬるい湯に突っ込まれたようにまともな思考を奪われる。


 無抵抗に漂う意識の間に時々鮮明な情景が差し込んだ。


 充血し澱んだいくつもの目だった。


 その瞬間ハルは苦しげに喉を鳴らす。


 火照って膨らんだ体をよじり無意識に何かをまさぐるように両腕で宙を掻きむしった。


 その瞼に焼きつけられた残影とも呼べるようなものは昼と夜と問わずハルを襲った。


 空気が水分を含んだ湿度の高い雨の日に、それは多かった。


 時々ハルの耳元で誰かが優しく何かをささやいていた。


 体から熱が引き視界と意識がはっきりとしてくる。


 自分を見下ろす気配を感じ顔を向けると二つの瞳と目があった。


 髭を蓄えた人間の男だった。


 男は何か言ったがハルには理解できなかった。


 男の声は聞いたことのある声だった。


 時々自分の耳元で囁かれていたそれと同じだった。





 体は次第に軽くなり、腹部の痛みが体を動かした時にわずかに残る程度になった頃、ハルは檻に入れられどこかに運ばれた。


 どこか遠いところへ行こうとしているようだった。


 目隠しで覆われた檻の中で、それでも感じる質感の違う空気と聞こえてくる音、そして匂いがハルの世界だった。


 いくつかの世界を経たあとハルは広いところへと移された。


 そこが到着地点なのだと直感した。



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