伊吹の出生の秘密(3)



 いやそれは俺自身で見つけなければいけなかった。


 誰にも知られたくない。


 知られるのは嫌だ。


 仕事が終わって誰もいなくなった研究室で俺は毎晩血眼になって自分の遺伝子を調べた。


 異常な遺伝子は他にはないだろうかと。


 そしてそれ以上にそれとは反対のことを俺は祈っていた。


 この呪われた瞳以外に異常なものはありませんように。


 俺は他の人と同じでありますように。


 幸い色覚以外の異常遺伝子は見つからなかった。


 それでも俺は調べ続けた。


 自分の遺伝子が他の人の遺伝子と同じであることを確認し続けなれければ不安で仕方がなかったんだ。


 それがどんなことか分かるか?


 だからこれ以上俺の遺伝子を残してはいけない、誰とも交わってはいけない、誰も愛してはいけない。


 ずっとそう自分に言い聞かせてきたんだ、それを!」


 伊吹は一度激しく拳を壁に叩きつけると、一凛を睨んだ。


「一凛、おまえはハルと。


 ハルを愛してるだと?


 そんなことが赦されると思ってるのか?


 姉貴は言った。


 父を愛していたと。


 誰に分かってもらえなくてもいい、でも自分の愛は真実の愛だと」


 ハッと伊吹は短く笑った。


「その真実の愛とやらで産まれたのがこの俺だ。


 人とは違う肉体を持ち、いつも何かに怯えなければならない。


 それが真実の愛の結晶かよ」


 一凛は哀しい目をした。


「伊吹はどうやったら幸せになるの?」


 一凛は伊吹のお姉さんと話した遠い日のことを思い出していた。


 死んだ父親の傘を握りしめていた美しい人。


「普通に産まれてたら、愛し合っていない二人でも誰でも良かった?」


「愛なんて形のないものは生きていくのに絶対不可欠なものじゃない」


「それならわたしを放っておいて。


 伊吹を幸せにできるのは伊吹しかいない。


 他の誰でもない。


 お姉さんと死んだお父さんを恨み続けても幸せが遠のくだけ」




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