産まれてきた子は(8)
それなのに自分は全てを妻に任せ背を向けたのだ。
本当は手を尽くせばもう少し長く生きられたかも知れない。
あの子の寿命を縮めたのは自分だ。
いや、殺したのは自分ではないかとさえ思えてくる。
もしかしてこの蠢く影はあの子ではなかろうかと非現実的な発想をするようになるまで颯太は追い詰められていった。
自分を恨むがあまり悪魔と化したあの子が生まれ変わって自分に復讐しに来たのではないだろうか。
それならば自分はそれに向き合わなければいけないと思った。
そうすることで自分はずっと引きずっている呪縛から解放されるだろう。
恨みで形を変えた我が子と戦う。
それが自分の犯した罪を制裁する唯一の方法に思えた。
生まれて来た子は人の形をした人ではない者だった。
そして自分に牙をむく悪魔でもなかった。
それはただ一つの無垢な命だった。
無力で無害のこのまま放置すれば声をあげることもなく誰にも知られずに消えてなくなる小さな光だった。
この非力な生き物がどうして自分に復讐などできようか。
まだ無の中に存在しているこの子がどうして恨みなどいう感情を持ち合わせていようか。
颯太はまばゆく光るその子を抱きあげた。
その瞬間、温かいものが胸の内側から溢れ出るようにして颯太を包んだ。
なぜかそれは胸に抱いたこの子とそして一度も触れることなく逝ってしまった我が子と繋がっていると直感した。
すぐ近くに我が子を感じた。
形のない想いだけの魂とも呼べるそれは、颯太にぴったりと寄り添い、伝わって来るものは暖かく喜びに満ちていた。
恨みや哀しみとはほど遠いその想いに颯太は胸を詰まらせた。
我が子は一度でも自分を恨んでなどいなかったのだと颯太は知った。
それどころか、自責の念に捕らわれる颯太をずっと心配していた。
『お父さん、大丈夫だから』
そんな風に言っているように思えた。
温かい光を颯太の胸に灯すと我が子の気配は空気に溶けるようにして消えてなくなった。
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