産まれてきた子は(4)
「元気な赤ちゃんだよ」
その言葉に一凛は胸が熱くなった。
「よかった」
一凛は笑みを浮かべる。
颯太と一凛の温かな空気を引き裂くように部屋の扉が激しく開いた。
「一凛」
微笑んだまま一凛は顔を向ける。
はっきりとしてきた視界にほのかの姿が映った。
「颯太その子をどうするつもり」
ほのかは叫んだ。
ほのかは颯太を睨みつけている。
「言ってる意味が分からないな」
薄いピンク色の毛布に包まれた赤ん坊を抱えた颯太の声は平坦だった。
「最初から全て知っていて一凛に近づいたんでしょ。その子をこっちによこして」
ほのかは両腕を伸ばして颯太に歩み寄る。
颯太は片手を大きく開いてほのかに突きつけた。
「近寄るな」
その気迫にほのかは思わず足を止める。
背後に人の気配を感じた。
振り返ると射るような目をして伊吹が立っている。
ほっとしたのもつかの間、
「颯太、その子を処分してくれ」
伊吹のその言葉にほのかは固まった。
「伊吹?」
「その子はこの世に産まれて来てはいけない子だ。その子も誰も幸せにはならない。世間に知られる前に処分してくれ」
「依吹なに言ってんのよ」
依吹の腕を取ろうとするほのかの手を依吹は振り払った。
「警察に通報したのは俺だ。颯太じゃない」
一凛の体が大きく震えるのがほのかの視界の端に映った。
「一凛のためだ。だから颯太頼む、こっそりその子を葬ってやってくれ」
颯太は伸ばしていた手を引っ込め、両手で優しく赤ん坊を抱き直した。
「二人ともなんの事を言ってるのかさっぱり分からないな。こんなに可愛い赤ちゃんを一体どうするって言うんだ」
颯太は上半身を傾けた。
颯太の腕の中で毛布に包まれた赤ん坊の顔がのぞいた。
りんごのような真っ赤で小さなそれは健やかに寝息を立てている。
それを見た依吹はうめき声を漏らし、やがて顔をくしゃくしゃにして笑った。
「なんだ、そうだったのか」
体から力が抜けたようにふらつきながら寄ってくる依吹から颯太は離れる。
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