失踪(3)
ハルを通報したのはこの町の住人ではないのではないか。
そんな考えがほのかの頭をよぎった。
この町に来る目的は一凛を探すことだったが、それとは別にハルを通報した人間に一言言ってやりたいという気持ちがほのかにはあった。
一言と言っても実際に何を言おうとしているのか自分にも分からなかったが、通報した人間が自分が手柄を立てたと思って意気揚々としていたら許せない思った。
暗い雨のなか動くものが見えて目を凝らすと、二匹の猫が雨を避けながら建物の隙間に入っていった。
子連れの猫だった。
やはり一凛のお腹の子はハルの子なのではないだろうか?
ほのかの中にあった不安は今や確信に近くなっていた。
一凛がいなくなった理由はそれ以外考えられない。
依吹はしばらく動物園に張り込んでも一凛が現れないのが分かると、警察に届けようと言い出したが、ほのかはそれを必死で止めさせた。
もし本当に一凛のお腹の子がハルの子だったらなるべくひっそりと出産させないといけない。
出産?一凛は産むつもりなのか?
例えようのない恐怖がほのかを襲った。
そんなことが現実にあり得るのか?
依吹は一凛が取り返しのつかないことをするのではないかと心配していたが、ほのかは一凛は自ら命を絶ったりしないと、それには自信があった。
ハルがまだ生きている限り、お腹の中に一つの生命が息づいている限り、それは絶対にない。
バチバチという雨音の他にコンコンと何かを叩くような音が聞こえたような気がした。
しばらくするとまた音がする。
何気に音のする方を向きほのかは飛び上がった。
運転席の窓の外から黒い影がこちらを覗いているのだ。
すぐに黒い影が人だと気づいたが、体を硬直させたまま動かないでいると、またコンコンと窓を叩かれる。
恐る恐る窓を開けた。
「ほのかちゃん」
親しげに名前を呼ばれても誰だか分からないでいると、相手は急に恐縮したように
「あ、すみません。もしかしたら人違いしてしまったかもです」
とよそよそしく言い訳し、その場を立ち去ろうとする。
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