宿された命(6)


「だいぶ痩せたんじゃない?」


「食欲がなくて」


 ほのかは買い物袋をテーブルの上に置いた。


「何か食べる?」


「ううん、さっき依吹がおかゆを作ってくれたから」


 一凛はそう言いながらも、ほのかが買い物袋からグレープフルーツを取り出すのを見るとソファーから立ち上がった。


「グレープフルーツ食べたかったの」


 一凛はほのかの手から一つ取ると匂いを嗅ぐ。


 その場でみかんを剥くようにグレープフルーツの皮を剥ぎ、房ごと頬張る一凛を見てほのかは怪訝な顔をした。


「一凛、もしかして妊娠したんじゃないの?」


 一凛の手が止まる。


 この部屋にまだ僅かに残る依吹の香りに包まれて一凛は首を少し傾けた。


「依吹に結婚を申し込まれた」


「依吹は知ってるの?」


「まだそうだと決まったわけじゃ」


 一凛はあっと言う間にグレープフルーツを一個食べ終わると、もう一つに手を伸ばした。


「よかったね、一凛。よかったよ、これで」


 一凛はこのままハルのことは忘れてしまった方がいいのだとほのかは思った。


 依吹との結婚と妊娠。


 すべてを今までとは違う新しい環境にするのが今の一凛にとっては一番いい。


 ひたりと黒い影がほのかの胸をかすめた。


「依吹の子だよね」


 影を口から吐き出すようにほのかは訊いた。


「そうだとしたらね」


 ふふっと一凛はグレープフルーツを頬張りながら含み笑いをする。


「そ、そうだよね」


 ほのかもグレープフツーツを掴むと一凛と同じように皮を剥き始める。


 しばらく二人は黙々とグレープフルーツを食べた。部屋に甘酸っぱい匂いが漂う。


「ハルにはあれから会ったの?」 


 ほのかは気になっていたことを訊ねた。


 一凛はううん、と首を振る。


 まだ生け贄の儀式がいつ行われるのかまでは決まっていなかった。




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