望まない結末(2)
まさか。
通行止めになった先にハルが待つアパートがあった。
まさか、まさか。
よろけるように前に出た足がもつれそうになる。
その時は逃げろ!
ハルの声が降ってきた。
いや、そんなの。
一凛は聞き分けのない子どものように首を横に振った。
逃げろ!
ハルの血走った目が一凛を睨みつける。
その目が麻酔銃で撃たれたオランウータンの目と重なる。
大きく開かれた赤い口から悲痛な叫び声があがる。
一凛は両耳を塞いだ。
地面にくず野菜が散らばり、おにぎりが水溜りの中に転がる。
逃げろ一凛!
一凛はサイレンに背を向け走りだした。
ハルの元へ走りたかった。
自分だけ逃げたくなどなかった。
引き裂かれそうになる心をその場に置いて一凛は無我夢中で走った。
途中からどこを走っているのか分からなくなったがそれでも走り続けた。
サイレンの音が聞こえなくなっても走り続けた。
雨の音だけが聞こえるいつもの夜に自分がいることに気づくと一凛はようやく足をゆるめた。
それでも歩き続けた。
ずいぶんと長い間歩いた。
頭の中は空っぽだった。
心を置いてきてしまったら何も考えられなかった。
膝ががくりと折れた。
これ以上歩けない。
ビルの隙間に濡れた体を滑り込ませる。
雨が避けれる小さな空間にうずくまり抱えた膝に頭を埋める。
体は鉛のように重く動かなかった。
ずっとここにこうしていたい。
このまま死んでしまってもいい。
いやそうなってしまえたら。
考えること感じることをやめてしまえたら。
一凛は一つずつ捨ててみる。
最初に体の感覚を手放し次に思考を止める。
そして重い心を胸から外した。
最後に残ったのは雨音だった。
子どもの頃からずっと聞いてきた雨音だった。
何もなくなったのに雨だけはある。
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