望まない結末(3)


 ああ。


 一凛は気づく。


 ずっと存在するものだと思っていた雨は実は存在しないもの、いや、雨だけがあることが無の状態なのだ。


 意味もなく笑いが漏れた。


 その時、


「一凛」


 光が差し込むようだった。


「一凛」


 光の方向に顔をあげる。


 光は寄って来ると一凛を抱きしめた。


 濡れそぼった一凛の水分が乾いた光に吸い込まれていく。


「依吹、濡れるよ」


 一凛が体を離そうとすると強い力で引き戻される。


「見つけられてよかった」


 一凛の耳元に依吹の温かい息がかかる。


 よかった、よかったと依吹は何度も繰り返す。


「依吹、よくないのよ。全然よくないの。だってハルが、ハルが捕まってしまったのよ。全然よくないのよ」


 胸の内側から聞こえてくるくぐもった声ごと依吹は一凛を強く抱きしめた。


 一凛が依吹のマンションで目覚めたのは昼も過ぎだ頃だった。


 ベッド際のテーブルにメモがあった。


 すぐに戻るからそれまで好きに使っていいと書いてある。


 メモの重し代わりに使われたリモコンで寝室にあるテレビを恐る恐るつける。


『脱走ゴリラついに捕まる!』


 画面の左下の文字が目に飛び込んできた。


 三人の出演者たちがコメントを言い合っている。


『それにしても驚きですね。まるで人間の逃亡者のようですね』


『ほんとうですねぇ。こんなにもゴリラって人に近いんですねぇ』


 一凛はしばらくその画面を眺めチャンネルを変えた。


 どの局も『ゴリラ捕まる』『ついに捕獲』などの見出しでひとまず一凛は胸を撫でおろす。


 少なくとも見つかったその場で射殺などという最悪の事態は間逃れたのだ。


 ハルが今どこでどんな状況にあるのか知りたかったがマスコミはハルがあのアパートで捕まった、とだけ報道していた。





 

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