依吹(12)


 依吹は一人になった車内から窓の外を見上げる。


 部屋の中の気配を少しも漏らすことのない厚いカーテンの向こう側を想像した。


 さっき遠くで鳴っていた雷がすぐ近くまでやって来たようだ。


 シートに深く体を沈め目を閉じる。


 雨が車を突き抜け体に刺さる。


 依吹はただ雷を待った。


 早く来い。


 早く引き裂け。


 瞼の裏が真っ白に輝くと同時に体を揺すられるほどの爆音が轟く。


 激しい風が大粒の雨を引き連れ一斉に体をなぶった。


 それでも、心の中は空気が止まった洞穴のように暗く静かだった。


 嵐が全てを根こそぎ吹き飛ばしてくれることを願ったがそれは叶わなかった。


 力を弱めた頼りない雷の声がどこかの空から聞こえてきたとき、依吹は車のエンジンをかけた。


 永遠に降り続く雨に向かってアクセルを踏み込む。



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