ほのか(2)


 一凛がそういう意味で言っているのではないと分かっていても激しく動揺した。


 湧き上がる想像を必死で振り払う。


「ほのか気分でも悪いの?大丈夫?」


 一凛が心配そうにほのかの顔を覗き込む。


「昨日アルゼンチンのフライトから戻ってきたばかりだから」


 ほのかの噓に一凛はごめんね、とあやまった。


「これからどうするつもり?」


 一凛は、うん、とうなずいて店内を見回し、こんな喫茶店まだあるんだ、と関係のないことを言う。


 それでもほのかと視線が合うと決心したように言った。


「わたしね、一度イギリスに戻ってハルのことを相談したいと思ってるの」


 それはここ数日一凛なりに考えた結果だった。


 あちらの動物愛護団体が働きかけてくれたら、今のハルを見つけて殺せという最悪の状況からは逃れられるのではないか。


 少なくともハルが事故で人を殺してしまったことについてもっと人と動物を平等に判断してくれるだろう。


 一凛は今回の事件の真相をほのかに話した。


 ほのかは最後まで聞き終わると、男の体はドラックでぼろぼろだったこと、普通の健康な状態だったら死ぬことはなかっただろうと、颯太が言っていたと告げた。


 一凛はそれを訊くと悔しそうな顔をし、


「だったらやっぱり絶対にハルを助けないと」


 と呟いた。


「でもそれでほんとうに状況は変わるのかな」


 ほのかは一凛の考えに賛成しかねていた。


 マスコミや世間はスクープが欲しいだけだ。


 それが真実であるかないかは関係ない。


 新たに彼らを喜ばせるネタを提供しなくてもいいように思えた。


 事故でもハルが人を殺してしまったのは事実なのだ。


 それに刺激的なサイドストーリーがつけば事が大きくなるだけのように思えた。


「このままずっと逃げ切れるわけじゃないから。見つかるのをただ待つよりはいいと思う。それでほのかにお願いがあるんだけど」




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