颯太(2)
「あ、すみません。もしかして俺のこと忘れちゃってます?」
一凛はこのまま彰斗を覚えてないふりをするかそれとも思い出すふりをするか迷い後者を選んだ。
彰斗は一凛が覚えていると言うと嬉しそうにした。
目を細めて一凛を見る彰斗が、この状況を説明して欲しいと言っているようで、
「ここ、わたしの実家なんです」
咄嗟に嘘をついた。
「え?でも一凛さんは颯太と同じ高校じゃ」
「あ、えっと父の実家なんです。彰斗さんはどうしてこちらに?」
彰斗は急に神妙な顔つきになる。
「実は例の彼女を追って来ました」
訊くところによると結婚が流れた彼女の実家がこの町にあるのだそうだ。
別れてもまだ彼女を忘れられない彰斗は、彼女がいま帰省していると知り彼女の両親に認めてもらえば彼女の心も変わるのではないかと思ったそうだ。
「で、玄関先で相手のご両親に頭をさげたんですか?」
一凛はなるべく呆れた声にならないように努めた。
結果は?
と訊くと、「見ごとに玉砕しました」と彰斗は答えた。
どこかこの辺にゆっくり酒が飲めるところはないかと訊ねる彰斗に一凛は自分は行ったことはないが、と、何度か前を通ったことのあるスナックを教える。
いつもオープンしているのかどうか分からないような店だったがこの辺りではその店しかなかった。
場所を何度説明しても首をかしげる彰斗を仕方ないので店まで連れて行ってやることにした。
傘をさして並んで歩くと小柄の印象だった彰斗はそんなに小さいわけではないと気づく。
あの時は颯太の横にいたのでそう見えただけなのだろう。
「あの颯太さんにはわたしとここで会ったことを言わないでいてもらえますか?」
怪訝そうな顔をする彰斗を横目に一凛は、自分が父の実家の店を手伝っているのには複雑な事情があり、身内の問題を人に知られなくないのだと説明する。
よくこんなにつらつら噓が出てくるものだと、一凛は言いながら思った。
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