檻を超えて(6)
目の前で颯太が自動販売機に入ったコーヒーを啜りながら言った。
あまり寝ていないのだろうか、目の下にくっきりとクマを作っている。
「大丈夫。ムードは独身の男と一緒なときだけに必要なものだから」
颯太は短く笑うと「一凛ちゃんと連絡が取れないんだ、なにか知ってる?」とすぐに本題を切り出してきた。
ほのかが黙っていると颯太は死んだスタッフのことについて話し始めた。
死んだ男の直接の死因は頭を強打したことによるものだが、男の体の内側はぼろぼろだったそうだ。
普通だったら多少の後遺症は残っても死ぬまでの怪我ではなかったらしい。
ほのかは口に運ぼうとした紙コップをテーブルの上に戻した。
「なんでその男の体はそんなにぼろぼろだったの?」
颯太は言い淀んだが、「これはあくまでも俺の推測として」と付け足して、誰もいないのに辺りを見回すと小さな声で言った。
「男はなんかの薬の中毒だった」
「ドラック?」
颯太はうなずく。
ほのかはため息をついて椅子にもたれかかった。
「俺思うんだけどさ、一凛ちゃんの言うようにあのゴリラはなにか理由があってスタッフを襲ったと思うんだ。脱走されて世間は大騒ぎしてるけど、あいつはやたらめったら人を襲ったりしないと思うな。俺も昔はあいつのこと超凶暴なゴリラだと思ってたけど」
「依吹にそのことは話したの?」
颯太は首を横に振った。
「あくまでも俺の推測でしかないし、調べればすぐに分かるだろうけど、はっきりさせたところで状況が変わるどころか悪くなるだけだ」
殺されたスタッフがドラック中毒だったとしてもハルが人を殺してしまったことには変わりはない。
そんなスタッフを雇っていたという動物園側がますます責められマスコミの格好のネタになるだけだ。
「でも一凛ちゃんにはこの事を伝えた方がいいと思ってこの前から連絡を取っているんだけど、全然繋がらないんだ」
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