事件の真相(5)



 ハルはすぐに舎監に移された。


 スタッフたちはハルが伝えたように男の荷物を調べたようだったが、ハルが元の檻に戻されることはなかった。


 舎監に食事を運んでくるスタッフ達はみな哀れんだ目をしてハルを見た。 


 ハルは自分の置かれた状況を理解した。


 もしかしたらあの男は死んでしまったのかも知れない。


 そうなると自分は処分されることになるかも知れないと冷静に思った。


 そう思っても不思議と動揺はしなかった。


 死を怖いとも感じなかった。


 ああ、終わるのか、そう思っただけだった。


 昔自分が死を望んでいたことを思い出す。


 ジャングルで一度失いかけた命、あのときはそのまま手放したいと思った。


 それからこの動物園に移されしばらくは同じ気持ちだった。


 あの時から今まで生にしがみついたことは一度もない。


 いつでも死は受け入れられた。


 それでも昔のように自ら死を望まなくなったのは一凛と出会ったからだった。



 一凛の顔がもう見られなくなる。


 自分の死を意識したときハルの脳裏をよぎったのは、それだけだった。


 自分が殺されたらさぞかし一凛は哀しむだろう。


 それを思うと心が痛んだ。


 自分の死よりも一凛の哀しみの方がハルにとっては避けたいことだった。


 一凛は一度も新しい檻を訪れることはなかった。


 最後に一凛と会った時、一凛はもう自分たちは会話をすることができなくなってしまうと寂しそうだった。


 あの時が最後の会話どころか一凛の顔を見る最後になろうとはまさかハルも思っていなかった。


 こんなことになるならあの時。


 ハルは一凛を思い浮かべる。


 白い肌に黒目がちな大きな瞳。


 雨を含んだ風にときどき長い髪が揺れる。


 猫の毛のように柔らかそうな髪だとハルはいつも思っていた。


 自分の固い黒い毛とは違う。


 あの髪に一度触れてみたいと思っていた。


 髪だけではない一凛の白い柔らかそうな頬にも、同じように細くて白い指にも、触れてみたい。




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