事件(8)
ハルが移動してすぐだったので混乱してしまったが、ことはシンプルだ。
怪我を負ったスタッフの男に問題があったのだ。
だから動物園側は一凛にそれを隠したいのだ。
ハルが人に重症を負わせるほど怒ったこと。
一凛はハルが依吹と颯太を威嚇した時のことを思い出した。
ハルは自分のためではなく誰かのために感情を爆発させる。
今回もきっと同じだ。
たぶんハルはメスのゴリラを守ろうとしたのだ。
虐待。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
今日見たときメスのゴリラ達に虐待されたような外傷や不自然な体の動きをするものはいなかったが。
一凛はノートバソコンを開くと調査のために撮った数多くの写真の中からゴリラの檻のものを探した。
映ったゴリラたちの姿を一枚一枚チェックする。
動物を撮る目的で撮った写真ではないのでどれもゴリラの体の一部しか映っていなかったり小さく影のようだったりと体の様子が細部まで分かるものはなかった。
それに動物園には専門の獣医がいる。
虐待されているのだったら気づくはずだ。
電話が鳴った。
ほのかだった。
『ちょっとぉ、さっき日本に着いて空港のテレビで依吹が映ってたんだけど、なんか真面目な顔しておじぎなんかしちゃって笑っちゃうんだけど』
ほのかは何が起こったのか知らないようだった。
一凛が簡単に事の事情を話すとほのかは言った。
『大丈夫だよ、騒ぎなんて今だけだって。その怪我した男が退院する頃にはみんなそんなこと忘れちゃうから。え?一凛もちょっと関わってた?マジ?何やってんのよ二人とも。今バンコクのフライトから帰ってきたばかりだけどそっちに直行するね。タイ焼酎ラオカオ持ってくからさ』
その日ほのかは一凛のところに泊まっていった。
アルコール度数四十度のラオカオをストレートで飲み酔いつぶれて帰れなくなってしまったというのが本当のところだが、ほのかなりの慰め方だったのかも知れない。
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