頬の下の傷(7)
「なんだ、言うだけ言ってまた寝ちゃったね。それにしてもあっちもよく寝てんなぁ」
爆睡している彰斗を眺めくるりと颯太は一凛に向き直る。
「そう言えば病院内でときどき依吹を見かけることあるんだよ」
依吹はどこか悪いのかと訊ねると、患者としてではなく仕事で病院にやってくるのだそうだ。
依吹の詳しい仕事内容はこの前会ったとき聞かなかったが、確かに遺伝子と医療は関わりがあることもあるだろう。
「遺伝子の研究なんて、アイツも自分のルーツが知りたいのかなぁ」
颯太の言葉に一凛はギクリとする。
なかなか起きないほのかをどうにか叩き起こし最終の電車に乗った。
颯太は最後まで二人も泊まっていけばいいのにと残念そうだった。
電車の中で「焼けぼっくりに火がついた、なんてことになったら面倒くさいでしょ」とほのかはコンビニで買ったおにぎりの包みを剥がす。
「でも颯太のやつ、男友だちの泊まりに付き合うなんて、ただ人がいいだけなのか、それかほんとうに寂しいのかのどっちかだね」
窓の外は真っ暗で闇に雨は溶け込んで見えなかった。
灯りのない夜は唯一景色の中から雨を消してくれる。
でも見えないだけで確かに雨はそこにあった。
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