園長からの依頼(1)
依吹の動物園は動物に優しい環境を整えようとする努力があちこちに垣間見られた。
依吹は動物園の園長にはならなかったが、その精神に近いものを持っている人を園長にしたのだ。
動物園の半数近い檻は、その動物の生態環境にできるだけ近づけた『生態系展示』という方法が取られていた。
動物園にいる動物の役割である展示から除外されたハルも同様に扱ってもらえているのが一凛には嬉しかった。
後から知ったのだが、最初ハルは新しくできた檻に引っ越したオランウータンの檻に移る予定だったらしい。
それをハルにも新しい環境の檻を、と依吹が反対するスタッフを説得したのだと園長が教えてくれた。
園長を含め昔のように誰もハルのことを睦雄と呼ばなくなっていたが、展示してないゴリラにこんないい待遇をと、不平を漏らすスタッフもいた。
その殆んどが新しい檻を与えられなかった動物の世話をしているスタッフたちだった。
「いずれはすべての動物の檻を生態系型にしたいんですけど、先立つものがねぇ」
と園長は頭をかいた。
調査に動物園を訪れる日は必ずハルにも会いに行った。
ハルは昔のように一凛を拒絶することもなかった。
話をするのはほとんど一凛でハルが黙ってそれを聞いているのは昔と同じだった。
依吹の動物園での調査も残すところわずかといったある日、一凛は園長から相談を持ちかけられた。
ハルのことだった。
昔よりずいぶん穏やかになったし、そろそろ他の動物たちと同じように展示したいということだった。
そのためにと園長は言った。
「ハルに嫁さんを与えるのはどうかと思って。今いるトンゴがあれじゃないですか」
トンゴとは動物園にいる別のオスのゴリラだった。
かなりの老齢で最近は表の檻に出てこないことも多い。
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