一凛の決意(5)
「うん。でもそれはきっかけ。わたし思うの、動物ってわたし達人間が思っている以上に複雑で深い心を持ってると思うんだ。なんでも人間を中心に考えがちだけど、表現が違うだけでちゃんと同じ気持ちを持っていたり、それにもしかしたら人間が持っていない感情を彼らは持っているかも知れない」
言い終わって一凛はちらりと依吹の方を見た。
依吹はしばらく黙って遠くの方を見ていたが、一凛の視線に気づくと顔を向けた。
「いいと思うよ」
一凛はほっとした。
「依吹ならそう言ってくれると思った」
「なんで?あいつは反対したんだ。しそーだな。あいつ典型的な人間中心主義だもんな。自分の怒った顔が猿山のボス猿そっくりなのも知らないでさ」
一凛は思わず吹き出す。
こんなふうに颯太の容姿をこき下ろすのは依吹ぐらいで、それがなんだか可笑しかった。
一凛が笑うのをじっと依吹が見ているので「なに?」と訊くと「大人になってもえくぼは消えないんだな」と依吹も笑った。
依吹と一緒に笑っていると一凛は自分の中の湿った感情が少しづつ乾いていくような気がした。
「依吹は将来どうするの?」
笑いが一息つくと一凛は訊ねた。
依吹は弛ませていた表情を硬くした。
「考えてない、なんにも」
そういえば昔同じようなことを依吹に訊いたことがあった。
あの時も依吹は動物園を継ぐつもりはないと言っていた。
「とりあえず大人になったらどっか遠くに行きたい。誰もいないような僻地でなにか観測したり、そんな感じがいいかな」
なんだか寂しそうだなと一凛は思った。
「俺がいなくなったら寂しい?」
依吹はにニヤリとした。
「依吹が寂しいだろうな、って思ったの。わたしは依吹がいなくても寂しくなんてないから」
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