報われぬ恋(7)


『今日はごめん。


 なんかみっともないとこ見せた。


 依吹のことはいろいろ考えさせられる。


 俺、頭冷やした方がいいと思うから、明日の朝は迎えに行くのを止めようと思う。


 あとあのゴリラだけど、本当に危険だと思う。


 お願いだからもう近づかないで欲しい。颯太』



 しばらく電話を眺めていると後ろで「よお」と声をかけられる。


 振り向かなくてもその声で依吹だと分かった。


「今日、彼氏のお迎えないんだ。まさか昨日のことが理由?」


「それ以外なにがあると?」


 依吹は一凛の歩みに合わせてゆっくりと自転車を走らせる。


「だって挑発してきたのはあっちだぜ」


 颯太が伊吹のお姉さんのことで何か言おうとしたとき伊吹の態度は一変した。


 颯太はあのとき何を言おうとしていたのだろうか?


「伊吹のお姉さんって」


 一凛が訊ねようとすると


「それに一番凶暴なのは俺じゃなくてやっぱ睦雄だよな」


 伊吹が一凛の言葉に被せるように言った。


「あのねー、睦雄は」


 一凛ははっとして言い直す。


「彼はわたしのためにあなた達二人を怒ったの」


 なんでと問う依吹に一凛はどっちかの腕が自分の顔に当たったことを話した。


 依吹はその話を聞くと少し怖い顔をして正面を向いた。


「睦雄の奴、本気で一凛に惚れちまったのかもな」


「それに彼は馬鹿なんかじゃない、ちゃんと話せるわよ、それに」


 文字を読めることは言わなかった。


 なぜだかそれは一凛と彼だけの秘密にしておきたいと思った。


「じゃあ、なおさらだ」


 怖い顔をしたまま依吹は言った。

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