報われぬ恋報われぬ恋(2)
いつもの場所ではなく一凛からは見えない場所に隠れてしまった彼をしばらくの間一凛は待ったが、やがてあきらめ檻から離れた。
次の日学校が終わると一凛はまたまっすぐに動物園に向かった。
彼の姿は檻の中に見えなかった。
一凛は鞄から一冊の本を取り出すと檻の中に差し入れた。
一凛が最近読んだ小説だった。
次の日、本は同じところに置かれたままだった。
彼の姿も見えない。
その次の日、触れられた形跡のない小説を別の本に差し替えた。
何度本を変えても本がなくなることはなかった。
あの日以来、彼が一凛の目の前に現れることもなかった。
ふと一凛は思い立ち、彼が手に取って眺めていたのと同じ本を書店で買った。
図書室で借りたものの一凛は結局まだ一ページも読んでいなかった。
本を置いた次の日、その本はあった場所から消えていた。
彼の姿は見えなかったが、一凛は嬉しくて動物園からの帰り道をスキップしたくなるほどだった。
それから学年最後の期末試験に突入した。
来年のクラス分けにも影響する大事な試験だったため、一凛もさすがに動物園に寄らずまっすぐに帰宅した。
はれて試験が終わると一凛は動物園へと急いだ。
なんとなく今日は彼が姿を現してくれるような気がしていた。
一週間ぶりに行くと檻の周りの生い茂った緑が剪定されすっきりとしていた。
見通しのよくなった檻の前に黒い傘が立っているのが見えた。
「颯太さん」
一凛は驚いて立ち止まる。
どうしてここに?
訊ねようとして颯太の手に例の小説が握られていることに気づく。
「どうしてそれを?」
「そこにあったんだよ」
颯太は檻の前を指差した。
一凛は檻の奥をのぞいたが彼の姿はなかった。
「一凛ちゃんが夢中になってるゴリラがどんなもんなのか見に来たんだけど、全然姿を見せてくれなくて残念」
颯太は本を一凛に手渡した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます