銀白色の背中(10)



 ゴリラと目が合う。


 あの時と同じ深い眼差しをゴリラは一凛に向けていた。


 一凛の悩みを全て受け止め、慰めてくれているような優しさがあった。


「あなたはわたしの話していること全部分かっているんでしょう?依吹やみんなが、あなたがその、頭が弱いなんて言うのはほんとうじゃないでしょ?」


 ゴリラはゆっくりと目を瞬いた。


「ほんとうは話せるんでしょう?それとも声が出ないの?」


 ゴリラは一凛に背を向けるとまた檻の奥へと行ってしまった。


 一凛は唇を噛む。


 気づくと閉園の時間がせまっていた。


 檻の前を離れぬかるんだ道を正面門に向かって歩いていると、頭上でカラスが話しかけてきた。


「アイツ変だろ、変だろ」


 一凛が無視しても、変だろ変だろと追いかけてくる。


「うるさいわね、どう変だって言うのよ」


 つい言い返してしまった。


「ニンゲンと同じ、する」


 一凛は立ち止まった。


「何をするって?」


 カラスと本気で会話してはいけないと思いながらも訊かずにはいられなかった。


 カラスは黒い、でもあのゴリラのような深みはないガラス玉の目をキョロキョロさせるだけで黙っている。


「ねえ、彼が何をするって?」


「バーカ」


 カラスはそう言い放つと灰色の空を飛んでいってしまった。


 思わず石を投げつけてやりたくなった。


 やはりカラスとまともに会話してもろくなことがない。 


 でもカラスの言ったことは気になる。


 カラスはいつもあんな感じで人間を小馬鹿にしているが、嘘はつかないのだ。







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