雨の動物園(1)

閉園近い動物園に人はまばらだった。


 正門をくぐるとすぐにピンクのフラミンゴ達が出迎えてくれる。


 羽を雨に濡らせ一本足で休んでいる。


「人間」「食べ物?」「違う」


 小さく飛び交う言葉の群れの横を通り過ぎる。


 しばらく鳥類の檻が続く。


 ペリカン、ワシ、タカ。


 どの鳥たちも一凛と依吹がやってくると同じような言葉を口にした。


「鳥ってあんまり頭良くないけど、カラスは別格だ」


 依吹は近くの木から檻の中を見下ろしているカラスを見て言った。


 一凛も同じように見上げるとカラスと目が合いすぐに視線をそらす。


「バーカ」


 頭上で聞こえた。


「相手にすんなよ」 


「うん、分かってる」


 以前カラスと言い合いになり、最後は完全にカラスに言い負かされるという散々な目にあったことがある。


鳥類エリアを抜けるとライオンやチーターなど哺乳類の檻が並ぶ。


 殆どの動物が雨の当たらない場所で寝そべり、半分目を開け通り過ぎる一凛と依吹を見た。


「依吹か」何匹かがそう呟いた。


 ベンガルトラの檻の前を通り過ぎる依吹の背中が一凛には少し寂しそうに見えた。


 は虫類エリアにさしかかり、両手で自分の耳をふさぐ一凛を見て依吹は笑う。


「だって、にくぅとか叫ぶから怖いんだもん」


「亀はそんなことないぜ、種類にもよるけど。ゾウガメなんかは大人しいし長生きするからさ、ほら」


 依吹は巨大と言ってもいい大きさのカメの檻の前で立ち止まる。


 檻といっても低い木の柵でできた簡単に飛び越えられそうなものだ。


『リンダ メス 百十一歳』


 そう書かれたプレートが柵に括り付けられている。


 雨に濡れたゾウガメの甲羅は黒く光っていた。

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