ヤツらは異世界にも土足でやってくる…!(読まれませんように)
ちびまるフォイ
で、魔石はいったいどこへ行くの!?
「フハハハ!! この世界は我輩のものだ!!」
例によって異世界にやってきたのは冒険者だけではなかった。
ドジ女神のことだから魔王を間違って呼び出してしまうこともある。
そんなわけで放牧されている家畜のように平穏な日常を送っていた異世界は
魔王という異物によりめちゃめちゃに壊されてしまった。
「だれかーーだれか助けてーー!」
願いもむなしく魔王により蹂躙される世界。
追い詰められた人々は秘められし伝説の禁術を使うことにした。
Judgement Ancient Safety Last Absolute Chaos
ちぢめて
『 JASLAC 』
――その日、世界の秩序が壊れた。
※ ※ ※
「魔王様! 魔王様!」
「なんださわがしい。我輩は今、テレビを見ていたところなのだぞ」
「30歳にもなって"いないいないぶぅ"観ないでくださいよ。
こっちはそれどころじゃないんです」
「わかっている。村の大魔法反応のことであろう?」
「す、すでにご存じなんですか!」
「当然である、魔王の我輩が愚民どもの反旗の火種に気付けないでどうする。
よし、さっそく駆逐しにいくぞ」
「さすが魔王様!」
魔王は魔力反応のあった村へとやってきた。
「貴様らさては魔法を使ったな。そんなに我輩に消されたいようだな」
「めっそうもございません! お許しください!!」
「いいや、それはできないな。我輩は潔癖症なんでな。
どんな小さなほころびでも気になったら滅するまで安心できないのだよ」
「そんな……」
「死ね」
魔王の杖が光り出した。
魔王の呪文にのせてほとばしる波動が杖先に集まる。
そのとき。
「あなた、今、魔法、使いましたね?」
魔王の後ろから声がした。
「き、貴様! いったい何者だ!!」
「我々はJASLAC。あなたの魔法反応を検知してやってきたんですよ。
困りますねぇ。勝手に魔法を使われちゃあ」
「何を言ってる! 魔法を唱えただけではないか!!」
「ええ、ええ。そうですよ。その通りです。
でも、その魔法はあなたがイチから考えたものなんですか?」
「え……いや、それは……なんていうか……。この世界の伝わるものだし……」
「でしょう? そうでしょう? じゃあ、料金払わなくちゃ。
最初に魔法を考えた人に無断で魔法打つなんて、それ万引きと一緒だからね」
「ご、ごめんなさい……」
「次からは気を付けてね。魔法はあなたのものじゃないから。著作者のものだから」
JASLACは去っていった。
毒気を抜かれた魔王は城に戻ると手下に怒られてしまった。
「魔王様! どうして丸め込まれてるんですか! あんなのやっつけてくださいよ!」
「やっつけるにも魔法使うじゃんよぉ……」
「それに! 著作者っつっても魔法を最初に考えた人死んでるからね!?」
「え? じゃあ、我輩のお金は?」
「ぜーーんぶ、JASLACに流れちゃったんですよ!
あーもう! あんな大量の魔石取られちゃって! もったいない!!」
「あの野郎! 許すまじ!」
魔王はJASLACへの怒りに燃えた。
そこで確実に撃退するために魔法ではなく体を鍛え始めた。
「魔王様! すばらしい剣さばきです!」
「ふふふ、そうであろう。魔法に頼らなければ奴らを恐れることなどない!」
安心したのもつかの間、天井にへばりついていたJASLACが落ちてきた。
「今、使いましたね?」
その目は闇夜に光る獰猛な獣のようにギラついている。
「ふっ、今度はそんなおどしに屈するものか。貴様なぞ、我輩の剣のさびにしてくれる!」
「剣……使っていますね?」
「え?」
「なに無許可で剣を使ってるんですか?」
「いやでもこれ、我輩が作った剣だし……」
「でも、剣というベースを考え出したのはあなたじゃないでしょう?
アイデアという形のないものを保護するのが我々の仕事です」
「う、うう……」
「剣も、魔法も、すべては先人たちの著作物なんですよ。
それを無許可で使い倒すなんて言語道断。魔王でも認められません」
その後、魔王は正座させられたあげくに最終的に裸で土下座するに至った。
魔王の持つ魔石をたんまりと回収したJASLACはどこかへ去ってしまった。
「JASLAC……なんて恐ろしい召喚獣なんだ……」
JASLACが目を光らせている限り、魔王軍は剣も魔法も使えない。
剣の授業をはじめれば再びやってくるし、剣の絵を描いただけでも徴収対象。
奪われた魔石の力ですでに魔王以上の力すら持ち始めている。
追い詰められた魔王は自分のプライドをバキバキにへし折って、村人の下へやってきた。
「どうか、あのJASLACを消してくれないか! 我輩はもう悪さはしない!」
頭を下げた拍子に自分の角が地面に突き刺さる魔王。
そのみっともない姿を見ても村人は顔を横に振った。
「JASLACは見境がありませぬ。我々からも魔石を奪ってくるのですじゃ。
消したいのはやまやまだがそれができないんですじゃ」
「どうして!?」
「秘術JASLACは失敗したんですじゃ。ちがう魔物が生まれてしまったんですじゃ。
JASLACは別の魔物が生まれた副産物で発生した魔物なんですじゃ」
「正規の方法じゃないから……倒す方法が見つからないんですね……」
「……いや、方法がないわけではない」
「長老! それだけは!」
なにか言いたげな長老を村の若い衆は慌てて止めに入る。
しかし長老はなにか覚悟を決めたように話を続けた。
「倒す方法はないが……たった1つだけ、方法がある。
魔王よ。そなたの力を貸してくれるか」
「もちろん」
人間と魔王は手を取り合って、悪魔討伐へと乗り出した。
魔王は別の世界へとつなぐゲートを魔法で作った。
魔力を感じ取ったJASLACが、擬態していた人間の皮をつきやぶって外に出てくる。
「マホウ……ツカッタ……カネ……ハラウ……!!」
「くそ! 魔石を吸収しすぎて、すでに見境と理性を失っている!」
「ヨコセェェェェェ!!!!」
JASLACは魔王に向かって襲いかかる。すんでのところで動きが止まった。
どこからか鼻歌が聞こえてくる。
「ちょ、長老……!?」
「JASLACは音楽を感じると矛先を変えるのじゃ。
魔法よりもはるかに魔石を回収できるから大好物なんじゃ」
「オンガク……サクシ……サッキョク……ハラエ、ハラエェェェェ!!」
JASLACは狙いを魔王から長老へとターゲットを切り替えた。
長老がゲートの前にいるのを見て、魔王は作戦の意味がわかった。
「長老! まさかあなたは……!?」
「さらばじゃ。皆の衆、魔王よ。どうか、この世界をよろしく頼む」
長老は歌を口ずさみながら亜空間へとつながるゲートに身を投じた。
JASLACも音の鳴るほうへ、長老を追ってゲートへと飛び込み姿を消した。
かくして、たった一人の老いた英雄により世界は平和につつまれた。
『ただいま、魔王と人々との平和条約が締結されました。
戦いではなく共存という新たな時代への第一歩です』
人間と和解した魔王の姿は報道番組で世界へと伝達された。
JASLACの禁術は二度と使われることの無いように、ぬか漬けの奥へと固く封印された。
「これでもう夜も眠れなくなるほど怖い思いをしなくてすむな」
「さすがです魔王様」
魔王城にも平和が訪れた。
ふと、魔王は長老がJASLACが副産物である話を思い出した。
「そういえば、人間は最初なにを召喚するつもりであったのだろうな?」
「魔王様、今さらどうでもいいじゃないですか」
「だな。わーーっはっはっは」
平和を享受する大笑いをしている楽し気な玉座の間。
その空間を切り裂くようにして扉がわずかにこじ開けられた。
小さく開いた扉からは、ギラつく獣の目が中を覗いている。
「おたく……テレビあるのに、受信料払ってませんね……?」
Nightmare Hell Killer
ちぢめて
『 NHK 』
――もうどこにも逃げ場はない。
ヤツらは異世界にも土足でやってくる…!(読まれませんように) ちびまるフォイ @firestorage
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