第22話:男の子女の子

 1ヶ月後。

 町田宮高校ミニ四駆部一同でお宝@マーケット特設コースに来ていた。


「今回の大会はステチャンのコースなんだな」


 ステチャンとはステーションチャレンジの略で、田宮公認ショップが開催するレースを指す。


「はい……ここのコース、また難しくなってませんか?」

「エッグいですね。スタートから2連続バンク、ドラゴンバックも2連。そこから1枚でスプーンカーブ……テーブルトップ登ってコーナーから降り。最後……デジタルコーナーから60度バンク!?高さもあります……」


 スプーンカーブとは、ミニ四駆の場合はUの字を描くカーブを指す。

 デジタルコーナーは小さなストレートを波状に組み合わせたカクカクしたコーナーのこと。

 昨今のコースの難所の1つだ。

 60度バンクは、60度斜めに傾斜しているバンクコーナーになる。

 入り口が登り坂になるが、駆け上がる斜面はしっかり弧を描いている。


「ブレーキ下げるとバンクが登れない。上げると飛び過ぎて入らない。スピード出せないでござるよこれじゃ」

「俺の炎龍は得意なコースだがな……うちでツラいのは、みかどだろ」

「はい、ストップ&ゴーは部長のマシン向けですが、みかどさんのマシンは速すぎて……コースアウトしちゃうでござろう。みかどさん、モーター性能、下げますか?」

「ううん、ブレーキでなんとかしたいけど……デジタルコーナーからの登りが……難しいな……」


 そこに京商のメンツが現れる。


「あら、諦めちゃうの?勝てば大会出れるのにー♪」


 ナツとこういち……後ろにもう1人、スラッとした女の子が立っていた。


「3人目も女か……ん?」

「うわっ……」

「めっちゃかわいい……」


 3人目と思われる女の子。

 背はみかどより高いがとても細い。

 ショートボブっぽいフワッとした髪型は本田翼に似た雰囲気を与えている。

 そしてちっちゃい顔……大きい目……アイドルかと見まごうほどである。


「す、すごい子連れてきたな」

「どう?かんわいいーでしょ、うちの秘密兵器よ!見た目がかわいいだけじゃないの……ミニ四駆もすごいのよ。あたし、勝てないもの」


 ナツより速い。

 かなりの凄腕ということになる。


「は……はじめまして、ウチ、大河内あおいといいます、よろしくお願いします」


 あおいがオドオドと頭を下げる。

 どうやら人見知りするらしい。

 声は少し低めだけど、仕草もかわいらしい。

 こういう子を女の子らしいと言うのだろう。

 部員全員があおいに見とれていると、突如として嵐がやってきた。


 ばーーーん!


「きたわーーーきたのよーあったしがきたわー♪」


(あーウザいなー)


 ということで土井がいつも通りくるくると横回転しながら入店してきた。


「カズ、あんたの復帰試合ってことになるのかしら?マシンの調子はどう?」

「あの時はありがっとぅ、ほんと助かったし感謝してるわ。でも今日は勝負なんだから!あったし、負っけない!」

「ふふん、粋がるじゃない」

「ふん!今回はあったしが……ん……?くんくん……」


 なにやら土井が変だ。

 いつも変だけど、更におかしくなった。

 くんくんと辺りを嗅ぎだしたのだ。


「どうしたんですか?」

「ん……くんくん……臭うのよ……」


 なにが臭うんだろと見ていると、あおいの匂いを嗅ぎだしたのだ。


「ちょっと!他校の生徒に変態行為はダメです!セクハラですよ!!」

「ちがうのよみかどちん、ちょっと待ってよ……くんくん……」


 ウザくて変態なだけの人だったのに、変態行為までしだしたら変態の犯罪人になってしまう。

 辞めさせないと危険が危い。


「くんくん……やっぱり……この子、男の子でしょ?」


 一通り嗅ぎ終えると、土井は真顔になってそう言った。


(なにを言いだすんだろうこの人は)


「あら、よくわかったわね、さすがだわ」


 ナツがさらりと応える。


(なにを言いだすんだろうこの人も)


 すべての人間が二人のやりとりを理解するまでにしばらくの沈黙があった。


「「「「……えっ!!!」」」」

「この子は我が京商美術部が作り出した、最強究極決戦兵器、大河内あおいくんよ!!」

「やめてくださいそんな紹介……あの、すみません、ウチこんなですがよろしくお願いいたします」


 みかど、火野、水戸、木暮は唖然としている。


(男の子なのに……こんなにかわいい!こんなにかわいい!!)


「なぁーにぽかーんとしてんのよ!すぐわかるでしょー!?こんなオトコオンナのちんちくりん、あったしがぶっ飛ばしてあげる!」


 あおいは「オトコオンナ」という表現にカチンときたようだ。


「この人ウザいです、ナツさん、ウチ、この人とレースします!」

「あら、本当はみかどにぶつけたかったんだけど……いいんじゃない?あなたの力、見せつけてやんなさい♪」

「なぁーにが見せつけてやんな、よ!アンタの一度の人生、大事な時間を、だぁーーーーいなしーにしぃてあーげるーーー♪」

「くっ……やっぱりこの人、ウザいよぉ……」


 あおいが身体をよじる。

 スカートが太ももの上でふわりと揺れた。

 たぶん全員が心を撃ち抜かれたであろう。土井以外。


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用語解説:

・ステチャン

 ステーションチャレンジのこと。

 タミヤ公認ショップのレース。


・デジタル

 デジタルコーナー。

 小さなストレートの組み合わせでカクカクしたコーナーのこと。

 とにかく減速がひどい。

 ガンガンぶつかるように走るのでマシンへの負担が大きく、スラダンがないと壊れるかも?ってくらい怖い難所。


・スプーン

 スプーンカーブ。

 Uの字だと思ってください。

 (実車の場合は違います。)


・60度バンク

 60度斜めに傾斜しているバンクコーナー。

 入り口が登り坂になるが、スロープとはRが違い、しっかり弧を描いている。

 なのでセッティングを上手くすると、ブレーキが当たらずにクリアできる。

 が、60度はかなり急斜面で、パワーか速度がないと登りきれない。


・本田翼

 <http://www.stardust.co.jp/section1/profile/hondatsubasa.html>

 かわいいですよね・・・

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